本サイトが2月14日に公開した記事では、この冬、全国各地で「冬眠しないクマ」の出没が相次いでいることを指摘した。その上で、筆者が訪れたスキー場(長野県北部)の近くに自宅がある住民の話として「つい最近もスキー場に続く県道で、クマの目撃情報があった」と紹介した。
スキー場におけるクマの出没についてはこれまで、雪解けの進む春先(春スキー)での目撃情報こそあったが、厳冬期(トップシーズン)における出没報告は皆無に近かった。ところが、冬場に街中を我が物顔でウロつくアーバンベアが急増している事実からみて、厳冬期のスキー場におけるクマの出没は、もはや時間の問題と言っていいだろう。
ではスキー場でクマに遭遇し、襲撃を仕掛けられたら、どうすればいいのか。長年、スキーを趣味としてきた筆者が考えるに、迫り来るクマの襲撃から逃れられる局面は極めて限られていると思われる。
日本列島にはヒグマ(北海道)とツキノワグマ(本州以南)が棲息しているが、いずれも標的を時速50キロ前後で追尾する能力を備えている。時速50キロといえば、男子100メートル走の世界記録保持者で「人類最速のスプリンター」と称されたウサイン・ボルトの時速45キロを上回るスピードだ。
つまり、スキーヤーであれ、スノーボーダーであれ、追いかけてくるクマを振り切るためにはまず、時速50キロ以上のスピードで滑降できる技量がなければならないことになる。現実問題として言えば、興奮しているクマに執拗な追尾を諦めさせるためには、時速60キロ前後のスピードで引き離していく必要があるだろう。
加えて時速50キロ以上での滑降が可能な斜面は、おおむね中級者向けの中斜面(斜度15~20度)、それも中斜面が長く続く圧雪ゲレンデに限られる。中斜面の距離が短く、すぐに緩斜面になってしまうようなゲレンデでは、スピードが落ちたところで、たちまちクマに追いつかれてしまうからだ。
今後は自分が行く予定のスキー場やその付近でのクマの目撃情報の有無について、少なくとも事前に確認する必要があるだろう。そして目撃情報がある場合は、予定自体を中止するか、場所を変更すべきである。
(石森巌)