10月20日から始まった臨時国会前夜、X(旧Twitter)上で注目されたのが、元大阪市長で元大阪維新の会代表・橋下徹氏と、国民民主党・玉木雄一郎代表による、「社会保険料軽減」をめぐるやり取りだった。
日本維新の会、国民民主党の両党とも、現役世代が支えきれなくなっている「社会保険料」の負担軽減と、年間45兆円に膨れ上がっている医療費の自己負担率引き上げの方向性は一致しているが、具体的にどうするのかのツメが甘い。それを橋下氏が自身のX公式アカウントで、次のように指摘したのだ。
〈維新は、いったん保険料を3割、5割下げて、来年の4月には保険料を元に戻す政策らしい。国民は元に戻すということを前提にしないだろう。こんなやり方で政策議論を巻き起こすのは間違っている。やるなら高齢者・高所得者の負担増、開業医システムの効率化、一般医薬品の保険適用外、自由診療の拡大策などとワンセットの現役世代の負担軽減策という、強烈な反発の嵐を真正面から受ける形で大きな議論を巻き起こして欲しい〉
これは元首長らしい指摘で、数カ月だけ健康保険料を引き下げたところで、国民健康保険料を徴収する自治体の担当者が混乱するだけである。これに対し、玉木氏も公式アカウントで、次のように応じている。
〈はい。議論させていただきます。少なくとも恒久的に全ての被保険者の社会保険料を3割も軽減して、今の社会保険料制度が成り立つ姿を私は想像できません。後期高齢者医療制度への拠出金をゼロにするなら可能かもしれませんが、代わりに後期高齢者の窓口負担を原則3割にするのでしょうか。知りたいです〉
この2人のやり取りから、我々国民が知らない「社会保険料の闇」が見えてくる。
玉木氏の言う「後期高齢者医療制度への拠出金」だが、貧困老人や年金受給者、大学生まで、老若男女が支払っている健康保険料のなんと4割が「75歳以上の後期高齢者の医療費」に拠出(補填)されているのだ。
国民年金のみでは、年金支給額は年間200万円に満たない。その中から18万円の健康保険料と介護保険料が徴収され、年金生活者の手元に残るのは、ざっと130万円。光熱費や住居費、生活費を捻出するのはかなり厳しい。もし後期高齢者の医療費に補填をしなければ、年金生活者が支払う健康保険料は、年間約8万円を減額できる。爪に火を灯すように生きている年金生活者にとっては、大金だ。
ところが橋下氏や玉木氏、あるいは筆者ら一般人が社会保険料負担軽減について言及すると「老人を見殺しにするのか。お前らはナチスだ」というような嫌がらせコメントが殺到する。コメントの主のプロフィールや交流歴を辿ると、在日外国人や中国残留孤児の支援者や関係者、当事者家族とプロ市民活動家だったりする。
つまりは、社会保険料負担をめぐって、一般の日本人の間では世代間闘争など起きていなかった。みな負担に苦しんでいるのだから、当然だろう。
中国残留孤児とその子供はその壮絶で悲壮な半生から、身元が確認でき、年金受給年齢まで支払う意思があれば「年金を納めていなくても満額の老齢年金を補償し、それが足りなければ支援金も出す」という救済策が設けられている。
救済の対象は、昭和20年9月2日以前から引き続き中国または樺太の地域に居住、同日において日本国民として本籍を有していた残留孤児と、昭和20年9月3日以後、中国または樺太の地域で出生した残留孤児の子供。彼らの年金は満額で、医療費もタダ同然である。日本政府や我々日本国民ができうる、せめてもの償いではある。
だが、この救済策がアダとなり、病院や高齢者施設では治療法をめぐってトラブルが起きる。医師や看護師、介護職員は一部の残留孤児家族から「残留孤児である祖母や曽祖母、あるいは残留孤児の子供や親が亡くなって支援金と年金が払われなくなるのは困る。なんとしてでも延命しろ。家族を死なせたら訴訟を起こす」と日本語と中国語を交えて恫喝されるのだ。
これは筆者の実体験でもある。訴えるとスゴまれた医師は、無理な延命を希望もしていない患者本人に人工心肺と人工透析を繋ぎ、全身の臓器から出血して多臓器不全を起こすまで延命させられる。それを見た他の高齢者の家族からも、医師に「不公平だ、訴えてやる」と苦情が来る。
かくして人工呼吸器に繋がれた老人がずらりと横たわる老人病院は、まさにカネに飢えた餓鬼が棲む生き地獄となる。
ソ連侵攻の混乱のまま死別した生みの親、命を繋いでくれた中国の育ての親と天国で再会することも、楽になることも叶わない。点滴針と体中に繋がれたチューブが痛くて、自分の歯と口と体をよじらせてそれらを抜こうとするから、血だらけになる。幼い頃から苦労した中国残留孤児がなぜ、最期まで苦痛に満ちた治療を受けねばならないのだろうか。
老人虐待でしかない延命治療の財源もまた、残留孤児とその家族の半額以下しかもらえない年金生活者や貧困世帯が負担させられている社会保険料だ。
もし維新の会や国民民主党が社会保険料軽減法案を今後、検討するのであれば、高齢者への非人道的な延命治療を禁止する法案も同時に提出しないと、病院や施設は経営破綻するほどの訴訟を負うことになるだろう。
(那須優子/医療ジャーナリスト)