なんとも殺伐とした世相になった。
岸田文雄総理が表明した税収増の還元策について、政府は所得税などを1人あたり年4万円差し引く「定額減税」の方向で調整に入ったと、相次いで報じられた。これはあくまで1年間の暫定措置で、所得制限は設けず、扶養家族も対象にする予定だという。
一方、低所得者の生活支援策として、住民税非課税世帯を対象に、1世帯あたり7万円程度の現金給付も併せて実施する方針も発表したところ、「なぜ税金を払っていない非課税世帯が税金還付を受けるのか」と怒りのツイート祭りになった。これには大いなる誤解と偏見がある。
非課税世帯とはどういう世帯をいうのか。
①生活保護受給者
②障害者、未成年者、寡婦またはひとり親で前年の合計所得金額が135万円以下(給与所得者の場合、年収204万3999円以下)
③前年の合計所得金額が、居住している自治体の基準より少ない低所得者
この3つの世帯を指す。
③の低所得者とは、東京都23区や武蔵野市などの場合、大まかな基準で言えば、給与年収が100万円以下のワーキングプア世帯、65歳以上で年金収入が240万円以下、65歳未満で年金収入が200万円以下の人が当てはまる(市区町によって基準は異なる)。
正規雇用であれば、年金は給与天引き分と同額を企業が負担しているため、月額20万円程度の年金を受け取れるが、派遣やパート、自営業で国民年金しか払い込まなかった人は、最低ベースの年額150万円しか受け取れない。それも資産運用次第では、数年で国民年金の財源が尽きるのでは、と懸念されている。
厚生労働省の「令和4年国民生活基礎調査」によれば、住民税非課税世帯は日本の全世帯の24%を占めており、20代世帯の23.5%、30代から50代でも10%前後ある。60代世帯は20%だ。年金生活者の70代、80代になると、それぞれ30%、40%にまで跳ね上がる。
同じ非課税世帯といっても、生活保護受給者と低所得者では、待遇に天と地ほどの差がある。生活保護受給者には公営住宅があてがわれ、光熱費も医療費も交通費もタダ。納める税金は消費税だけだ。
一方で、204万円以下の給与所得者や年金生活者は、住民税と所得税は免除されても、国民健康保険料と介護保険料の支払い義務が生じる。どんなに生活が困窮していても、年額18万円以上の社会保険料を支払わねばならず、低所得者ほど負担が増すのは明らかだ。卵ですら1パック120円から300円に高騰するほど生鮮食料品が値上がりしている現状、非課税世帯への7万円給付を「老人へのバラマキ」と、一概に批判はできない。
「事実上の税金」であるこれら社会保険料負担に言及しないから、いらぬ誤解と偏見を生み、富裕層と貧困層、60歳以上と59歳以下の分断を招くことに、岸田政権や自民党・宮沢洋一税制調査会長の姑息さが見える。
2010年に、民主党の鳩山由紀夫政権が育児世帯への年少扶養控除(約70万円)を廃止したため、育児世帯への納税負担はかなり増した。同じ子育て世帯でも、鳩山政権以前の2009年より前に子供を産んだ世帯と、鳩山政権以降の2010年よりあとに子供を産んだ世帯では、子供1人あたり1200万円の「税控除格差」が生じている。もう国会議員のどいつもこいつも嘘つきにしか見えないし、その結果、至るところで摩擦が起きている。
しかも真面目に働いて年金を納めてきた勤労者が、生活保護受給者より苦しい老後を強いられる「逆転現象」。先日、一部の生活保護受給者が「ウナギも食べられない」とマリー・アントワネットのようなSNS投稿をして大炎上したが、働きながら社会保険料を納めるワーキングプアや年金生活者は、ウナギどころか卵もロクに買えない。
介護職、福祉職、保育職で働くひとり親世帯の月給は15万から18万円に抑えられており、ほぼ100%が年収200万円以下の非課税ワーキングプア世帯。その日の朝ごはんすら子供に満足に食べさせられないのに、オムツを替えている寝たきり老人のために、高額な健康保険料を貢いでいることになる。
目先のバラマキを論じるより、ここはジックリと腰を据えて、正直者や現役世帯がバカを見る現行の社会保障制度そのものを見直してくれれば、「増税クソメガネ」の支持率は爆上がりすると思うのだが…。
(那須優子)