愛知県名古屋市で今、「アクティブライブラリー構想」なる計画が進行中だ。市内の図書館を再編するという一大プロジェクトなのだが、建設地の選定をめぐって明らかになったのは、とんでもない話のオンパレード。そこには市民にひた隠しにされている「黒い交渉」「密室の取り決め」「不可解な税金つぎ込み」が…。
名古屋市が「アクティブライブラリー構想」を立ち上げたのは、河村たかし市政下の2017年12月。名古屋市16区を5つのブロックに分けて、ブロックごとにひとつずつ、基幹図書館を作ろうというもので、市の教育委員会によるものだった。地元有力者が語る。
「名古屋には商業施設運営や不動産業、ボウリング場管理などをやるH社という企業があり、ここが千種区の基幹図書館の誘致に動きました。2018年のことです。この企業の持ち物であるボウリング場を潰してその跡地にビルを建て、テナントとして図書館を入れたい…そんなことを思い描いていたようです」
となれば、H社のそのビルには、図書館のテナント料が入ることになる。ところがそれから数年が経っても、話はなかなか進まない。地元有力者が続ける。
「H社から提示されたテナント料が高すぎたからです。値下げにも応じなかったのだと。そのうち、別の候補地を探すことになりました。しかしそんな広い土地は、現図書館(千種図書館)の隣地ぐらいしかない。ここは名古屋市の土地です。では調査しましょう、となりました。これが2022年11月です。名古屋市教育委員会が72万6000円をかけて調べたら、『建ちます』という報告書が出ました」
そこで、他の候補地と比較する必要が出てきた。挙がったのは10カ所ほどで、ここから5カ所に絞り、検討。最終的に残ったのは、老朽化した菊里高校を移転あるいは統廃合させた後の土地、そしてくだんの千種図書館隣地だったという。だが前者はなかなかに難しい。現実的なのが後者であることは明らかだった。
ところがこの間も、H社による誘致案は消えたわけではなかった。千種図書館隣地の件を知ったH社は突然、「地代はいらないから図書館に入ってもらいたい」と態度を一変させたというのだ。
そして2024年になってようやく、H社の提案書が出された。
「ここで問題が発生します」
と話すのは、地元政界関係者だ。
「教育委員会がこれまでの比較検討をいきなりチャラにして、H社のボウリング場跡地に乗ることに決めてしまったのです。建設費のほか、エアコン代や警備費、清掃費などの維持費がいくらかかるのか、これが何もわからないのに、ですよ。不可思議なのはそもそも、なぜ公共の図書館がビルのテナントとして入るのか…」
ここでさらに驚くべきことが判明した。名古屋市政関係者が嘆息する。
「そもそも教育委員会がボウリング場跡地の調査を誰に依頼したのかといえば、なんと、当事者のH社だった。これに税金220万円をかけました。こんな随意契約はおかしいということで、2024年12月に住民監査請求が行われたんです。監査委員が調べたところ、H社の提案書が提出される前にもう、教育委員会はボウリング場跡地に決めていたことが分かりました。明らかに『裏取引』があった、ということになります」
密室の取り決めによるこの強硬策は「星が丘アクティブライブラリー」として動き出すことになる。
では実際に図書館を建てた場合、どうなるのか。ここに試算がある。
千種図書館隣地のケースでは、建設費と運営後60年間の維持・整備費を合わせて、およそ23億円。一方、H社の土地に建てると約48億円。25億円も多くかかる計算になるというのだ。
「両者の建設費は18億円前後とさほど変わりませんが、維持費が大きく違う。およそ5億6000万円と30億円ですから、その差は歴然でしょう。これは血税を使ってH社を儲けさせようとするもの。深く事情を知らない住民を騙していることになります。このまま市議会で賛成すれば、コトは進んでしまう…」(前出・地元政界関係者)
先の「220万円で随意契約」の調査委託をめぐってはその後、3月3日になって、違法であり無効だとして、千種区の住民らが広沢一郎市長を相手取り、名古屋地裁に差し止めを求める住民訴訟を起こしている。