竹中直人…今では日本を代表する大物俳優といっていいだろう。しかし芸能界でのスタート時は、お笑い芸人だった。「コメディアン」という表現の方が近いかもしれない。
1983年に「笑いながら怒る人」の顔芸で売れ出し、さらに有名人の顔面模写で話題になっていた竹中にインタビューをしたことがある。
当時の彼は、数多くの人気芸人を輩出しているプロダクション人力舎に所属。今ではスキンヘッドがトレードマークになっているが、まだ20代の竹中の頭髪はフサフサだった。
インタビューではこの世界を目指した経緯や、ネタ作りの秘訣などを聞いた。竹中は美大出身で絵がうまく、「模写が得意だった」などと話していた。
ただ、思いのほか声が小さく、何度も聞き直すことがあった。その頃はあまり取材慣れしていなかったのか、
「すいません、(取材は)あまり得意じゃないんで」
と頭をかいていた。かなりシャイ、という印象だ。
しかし写真撮影になるとこれが豹変し、数々の顔面模写ネタを披露。遠藤周作や松本清張、ブルース・リーのほか、新ネタも十数種類、見せてくれた。
芸能担当時に様々なインタビューをしたが、腹を抱えて笑った…という経験は、竹中を取材した時ぐらいだろう。
その後、地道に実績を重ね、現在のような大物俳優になろうとは、この時は予想だにしなかった。
(升田幸一)