かつては家に入って来る野良猫に、残りごはんの猫まんまをあげるようなことが一般的だった。猫たちがもらうご飯の他に、何を食べて生きていたかをあまり考えることもなかった。例えば、猫が草を食べていたかと聞かれたら、食べていたかもそれないし、食べていなかったかもしれないという程度で、気にも留めなかったに違いない。
ところが家で猫を飼うようになって、「猫草」を売っていることに初めて気がついた。大型量販店などに行くと、植栽のコーナーの片隅で、小さな植木鉢や種を植えて猫草を育てるキットを売っている。これはどんなものか、必要なものかなと、最初は首をひねってしまった。
我が家で最初の猫、ジュテをマンションで飼っていた時は、外に出て行って、トイレも済ませて帰って来る猫だったので、草が生えている外で遊んでいるだろうと、無意識に思っていた。草を食べているかどうかなど、まるで気にしなかった。
ところが今の一戸建てに引っ越して、ジュテ、ガトー、クールボーイと3匹になった時には、猫草は必需品になった。特にガトーは、試しに買ってきた猫草に飛びついた。ワシャワシャと食べる。かぶりつくという感じだ。そして食べた後、しばらくして必ず吐く。白濁気味のドロッとした胃液と一緒に、2~4センチくらいの猫草の葉を、お約束のように。苦しいのかと心配になるが、その後にご飯を食べたがり、うまそうにがっつくことがある。
どういうことなのかわからず、動物病院の先生に聞いてみた。すると「猫草は胃を傷つけることもあるから、食べさせなくてもいいんですけどね」ということだった。だが、ガトーは新しい猫草を買ってくるとすぐに気がつき、駆け寄ってくる。よく育つように日当たりのいい3階に置いたりすると、一瞬のうちに察知し、駆け上がって猫草を食べる。ガトーにとって猫草は必需品のようだ。
猫草はそもそも何かというと、燕麦、簡単にいうと、イネ科の麦の種類。またはエノコログサというイネ科の雑草だという。
では、なぜ食べるのか。ひとつは毛繕いで飲み込んだ毛を、毛玉として出すのを助けるため。それから排泄をよくするとか、ビタミンを摂る、味わうといったことが理由だという。
ガトーの場合は毛玉を吐き出すためだ。キジシロのガトーはモフモフしているが、毛が細かくて短い。ブラッシングすると、ブラシに毛がギッシリ詰まる。しかも毛繕いが好きで、しょっちゅうペロペロしている。おそらくお腹に大量に毛を飲み込んで、毛玉が溜まる。それで時々吐き出したくなるのだ。その際、猫草の何かの作用、力を借りて吐き出す。そう思うことにしている。しかも猫は吐いても、それほど苦しそうにしない。お腹がスッキリするなら、食べさせるのがむしろベターだ。
クールボーイはちょっと異なる。そもそもだが、お腹が弱いのか、ご飯を吐くことが多い。胃がガトーに比べて小さそうなのだ。猫草をあげてさらに吐いたらと考えて、食べさせるかどうか考えてしまう。
クーは猫草を食べたがり、その後はやはり吐く。しかもガトーと違って、茶色の液体だ。ガトーのように毛玉はなく、吐き出す草の量も少ない。吐く時も変だ。頭を普通に持ち上げたまま、上方にブハッと飛ばすように吐くことがある。「おい、おい、大丈夫か」と思わず、声が出てしまうこともあるほどだ。後始末も大変だし。
最後に、今年3歳になる末弟の黒猫そうせきはどうか。なぜか猫草を食べる姿をほとんど見たことがない。毛繕いはよくやっているが、黒猫はキジソロ猫のように毛が多くなく、飲み込む量が少ないのかも。そもそも、そうせきは食べても吐かない。
3匹いる我が家の猫は性格だけでなく、体質、癖もバラバラ。やはり人と同じで個性的だ。
(峯田淳/コラムニスト)