大関・大の里が12勝3敗で3回目の優勝を決めた、大相撲春場所。高安との優勝決定戦を制しての歓喜となったが、来場所の綱取りに目が向く一方で、落胆の度合いが深いのは、またしても初優勝がスルリと逃げていった高安だろう。なにしろ高安が千秋楽まで優勝の可能性を残した場所はこれまで8回、全て負けて優勝を逃しているのだ。
痛恨だったのは十四日目(3月22日)の美ノ海戦。11勝2敗で優勝争いの単独トップだった高安は、9勝4敗で前頭十四枚目と番付が下の美ノ海に、初顔合わせで痛い黒星を喫する。
立ち会いは突きで優勢に攻めながら、途中で引いてしまったことで形勢逆転。寄り切られて「しまった」と言わんばかりの表情になった。
「苦しくなると引いてしまうと悪い癖が、肝心なところで出てしまった。1敗で追っていた大の里に並ばれてしまい、こうなると優勝経験がある大の里が有利になった」(相撲ライター)
千秋楽の対戦相手は、小結・阿炎。V争い場所の千秋楽でこれまで2度、敗れている。ところが今回ばかりは、因縁の相手に上手出し投げで勝利。
とはいえ、悲願の優勝を逃した事実は変わらない。この結果に複雑な心境なのは、大の里の師匠である元横綱・稀勢の里の二所ノ関親方かもしれない。
高安は現役時代の稀勢の里にとって、同部屋の弟弟子。3歳下の高安が入門してきた時点で、稀勢の里は既に幕内力士となっていたが、稀勢の里の横綱昇進時には、高安も関脇に。その後、すぐに大関へと昇進し、田子の浦部屋の二枚看板として土俵を盛り上げた。
「二所ノ関親方は愛弟子の優勝が嬉しいでしょうが、かつての弟弟子がまたもV逸したことには、複雑な心境でしょう。2人は同じ茨城出身ですしね」(前出・相撲ライター)
一度は高安の優勝を見てみたい。相撲ファンのみならず、二所ノ関親方も心では秘かに願っているかもしれない。
(石見剣)