人材不足に悩む中小企業から、生活苦の学生や非正規職まで大歓迎のはずの「103万円の壁」撤廃と「8兆円減税」。これに「待った」をかけるテレビコメンテーターを見かける。「反対だ!」ではないにせよ、「貧しい人が損をする」「高所得者ほど減税効果が高くなる=得をする」などと問題点を指摘するのだ。
だがその一方で、問題点を口にしながらも「税金や控除ってわかりにくくてよく知らないんだけど」と情報番組などで言い訳をするコメンテーターがいる。その通りで、彼らは税制控除と社会福祉制度の仕組みを全くわかっていない。
「どこまでが貧困で、どこからが金持ちなのか」
その線引きこそが、いま話題になっている「税制控除」なのだ。
税金制度をわかりにくくさせているのが、アルバイト学生やパート主婦が扶養の範囲内で働く「103万円の壁」「130万円の壁」のほかに「135万円の壁」(東京都の場合)という「トリプル控除の壁」。
すでに各都道府県では貧困世帯の救済措置として、住民税非課税や社会保険料の減免措置をとっている。自治体によって定められた収入水準に達しない世帯は住民税の納税義務が免除され、家計の負担となる年金や健康保険料の支払いも減免される。ひとり親世帯の場合は、親の医療費や公共交通機関もタダになる。
ふるさと納税もそうだが、もともと税金を払っていない世帯が「金が戻ってこない」と不満をたれるのはおかしな話。「103万円の壁」はアルバイト学生からサラリーマンまで、働けば働くほど税金を取られすぎる「税制控除のバグ」改正が争点なのだから。
例えば東京都の「住民税控除」額は「世帯所得が135万円以下」(給与所得者の場合は年収の額面204万円4000円以下)。学生や障害者、ひとり親の世帯年収が「135万円」を超えると、貧困世帯ではないと見放され、住民税と社会保険料を年間30万円以上、支払わなければならなくなる。
さるひとり親世帯の母親が嘆く。
「『非課税控除』の設定が135万円というのは、あまりに今の物価水準と合っていません。今年、高校生になった長男が家計を助けるために、自宅近くのスーパーでアルバイトを始めましたが、夏休みを終えた時点で103万円を超えてしまって、扶養から外れることに。長男はバイト代から所得税を引かれ、さらに親まで住民税と所得税と社会保険料が『増税』されます。親子で働きすぎた結果、数十万円を支払うことになり、来年度の授業料が払えるかどうかわからないほど、生活が苦しくなってしまいました。『103万円の壁』が年内中に撤廃されるのかどうかは、我が家にとって死活問題なんです」
アルバイト学生の税制控除額が103万円から178万円に引き上げられれば、その分で高校の授業料を賄えるというのだ(現行の高校無償化制度には限度額があり、高校の授業料は全額タダというわけではない)。
103万円の控除額が設定されたのは1995年。30年間も物価の上昇や給与水準を考慮せず、税制控除額は据え置かれてきた。少なくとも今の物価水準、時給水準に合わせて、すぐに基礎控除額を178万円まで引き上げるべきなのである。
(那須優子)