第2の御嶽山か──。GW最終日の5月6日、気象庁は関東屈指の観光地、箱根・大涌谷付近に噴火警報を発令し、噴火警戒レベルを1から2(火口周辺規制)へと引き上げた。箱根山では初めてとなるこの事態、同庁によれば、御嶽山の噴火でも観測された「水蒸気爆発」の危険性が刻々と高まっているという。
その前日、封鎖直前の大涌谷を取材すると、観光施設直下の蒸気井(温泉造成のための蒸気井戸)から、ゴォーという不気味な轟音とともに、白い噴気が勢いよく噴き出していた。
「一昨日より昨日、昨日より今日と、噴気の勢いが日増しに強まっている‥‥」
テレビ中継車の姿が目立つ観光駐車場の管理人は、一気に減った客足を案じながらそう話していた。
山体膨張を含む一連の活動が始まって以降、最多となる116回の火山性地震を観測した5日には合計3回の有感地震も発生。このうち最も深い震源で発生した同日夜の有感地震では、筆者が住む隣町の湯河原もズシンという地鳴りと揺れに襲われた。
「これまでとは明らかに異なる事態が起きている」
震源域の移動を示すこの有感地震の発生を受け、翌早朝、気象庁は緊急声明とともに、噴火警戒レベルの引き上げに踏み切ったのである。
だが、箱根山の異変は大涌谷だけではなかった。大涌谷から直線距離にして北へわずか800メートルほどの山あいに位置する上湯地区。大涌谷への立ち入りが禁止される前日の5月4日に同地区を訪れると、今は閉館した老舗の一軒宿に近い林の中に、何とも不気味な光景が広がっていたのだ。
場所は箱根駅伝往路(山登り)中継のハイライトポイントとして有名な「小涌園前」から大涌谷へと続く県道734号線沿い。上湯のバス停付近には硫黄臭の入り混じった独特の臭気が立ち込め、バス停脇の空き地の一角からは高温の蒸気が激しく噴き出していた。だが、これはほんの序の口。ここから県道を大涌谷方面へ少し登った左手の山肌が「本丸」だった。
木々の間に見え隠れしている白い噴気の方向に恐る恐る足を踏み入れると、ほどなくして「高温の噴気有り 危険 立入禁止 箱根町」の立て看板。ふと見上げれば、立ち枯れた木々、おびただしい数の倒木、湿気を含んだ腐葉土などを覆い尽くすように、山肌のほぼ全面から真っ白な高温の噴気が絶え間なく立ち上っていたのである。
テレビや新聞が報じないこの超異常噴気は、観光客の目にも留まる。実際、この日も県道を走るドライバーらが車を降り、「何だこれは!」と驚きの声を上げながら、しきりに写真を撮っていた。ちなみに、上湯地区は件の立入禁止エリアには含まれていない。
◆ジャーナリスト 森省歩