梅雨が明け、7月になると「熱中症」が増えるのは例年のことですが、特にこの20年ぐらいで、目に見えて患者数が多くなってきました。これはもちろん温暖化現象によって真夏の気温が上昇していることにも関係はありますが、それと同時に、私たちの体が暑さに弱くなってきたことにも原因があるように思います。
国立環境研究所の分析結果では、今世紀末には、熱中症患者は今の2倍から3倍に増えるだろうと予測されています。
では、チェック項目(ページ下部)を見てみましょう。今回はいつものような「なりやすい」人や状態ではなく、こういう症状が出たら熱中症の可能性がある、という危険サインです。なので、もし1つでも当てはまれば、熱中症を疑ってください。また、もし周囲の人にこうした症状が現れたら、すみやかに涼しい場所へ連れてゆき、衣服を緩めて楽な姿勢を取らせ、首の横、ワキの下、股間の3カ所を冷やしたり、水分を補給させるなどの応急処置を取りましょう。もちろん場合によってはすぐに救急隊を要請してください。
日本では真夏になると患者が増えますが、一年中夏である赤道直下の国々では、日本に比べると熱中症で倒れる人がほとんどいません。なぜでしょうか?
その理由は、年中高い温度や高い湿度の場所で暮らしている人は、体が暑さに耐えるような仕組みを持っているからです。これを「暑熱順化した体」と呼びます。
日本人も、一世代前は熱中症で倒れる人はあまり多くありませんでした。しかし、現在、気象庁やメディアがこれだけ熱中症への警笛を鳴らしているにもかかわらず、患者が減ることはありません。これは日本人が暑さに弱くなっているからに他ならず、部屋や自動車などにエアコン完備が当たり前の時代になっていることと関係があると、私は考えています。
ということで、熱中症予防にはこまめな水分補給、汗をかいたら塩分も補うことが原則ですが、ここでは少し発想を変えて、真夏になる前に、「暑さに強い体を作ろう」というお話をしてみます。
汗をかいて、それを蒸発させるという体に備わった仕組みはとても大切です。なぜなら、汗は蒸発する時に気化熱というものを奪うので、それによって体に熱がこもらないようになるわけです。よく玄関先で打ち水をしますが、これもまいた水が蒸発する時に気化熱を奪うという物理現象に基づいた生活の知恵なのです。
こうやって人間は気温の変化に対しても、体温を一定に保つような仕組みが働いています。もし、汗をかかないとすると、熱がこもって体温も上がってしまい、これが熱中症の大きな原因となります。ですから、汗をかいてそれを蒸発させる体の仕組みが大切なのです。
そこで、夏本番を迎えるにあたって、汗をよくかく体を作っておきましょう。手軽にできる汗をかく体作りの方法としては、
(1)半身浴やサウナで汗をかく
(2)ウオーキングで汗をかく
(3)自転車をこいで汗をかく
この3つがオススメです。半身浴やサウナで汗をかくだけでも効果はありますが、軽い運動を組み合わせて行えば、1週間程度でほぼ暑熱順化できます。通常、10分のウオーキングを1日5回、休憩を挟んで行えば、だいたい1週間程度で暑さに慣れてきて、汗をかくようになります。運動を開始した日よりも、徐々にバテる感じが減ってきたら、体が暑さに慣れてきた証拠です。大切なのは、必ず休憩と水分補給を十分に行いながら進めていくことです。7月に入ってすでに暑い日が続いていることでしょうが、まだこれから8月の夏本番を迎えるまでには少し間がありますので、今のうちにぜひやってみてください。
ただし、せっかく汗をかきやすい体になっても、例えば一日中冷房の効いたところにいたりして、汗をかかない生活になってしまうと、体は元に戻ってしまいますので要注意。逆にいえば、1日1回はしっかり汗をかくようにすることが大切です。もちろん水分補給をしながらですが‥‥。
もう一つ、大切なことがあります。それは、血液の量を増やす努力をすること。そもそも、汗の源は血液なので、血液の量を多くしておくことで、汗をかきやすくなり、暑さに負けない、すなわち熱中症に強い体を作ることができます。信州大学の最近の報告でも、体の血液の量を増やすことで、汗をかきやすくなり、体温を調節する仕組みが高まるとのことです。
では、血液を増やすにはどうすればいいのでしょうか。具体的には、「ややきつい運動を1日15~30分、1週間に4日以上行い、直後に牛乳のようなタンパク質と糖分を多く含む食品をとる」と効果があります
(牛乳が苦手の人は、別のタンパク質でもかまいません。ヨーグルトを小鉢1杯程度や、豚肉、鶏肉、大豆などでも効果があります)。
また、ややきつい運動といっても、若い人ではジョギング、お年寄りでは早歩きでもかまいません。要は汗をかけばいいのです。
それを20代で1週間、30~40代で2~3週間、50代以上で4週間程度続ければ、体の血液の量が200~400cc増加するという報告があります。ただし、運動をやめると1~2週間で元の体に戻ってしまうので、継続することが大事です。熱中症対策だけでなく、夏バテ対策にもなり、夜もよく眠れるようになります。
すでに、もう暑い季節に入っているので、こうした運動をする時は、水分をとりながら徐々に行ってください。汗をかいたら、水分だけでなく、塩分も補ってください。くれぐれもお忘れないように。
本格的な暑さが訪れてきている今、最後にもう一つだけ言いたいのは、自分だけは熱中症にならない、という考えは捨ててください。熱中症で運ばれてきた患者さんからお話を聞くと、「まさか自分が熱中症になるとは思わなかった」という方がほとんどです。しかし、知識と理解、そして自己管理で、熱中症は予防できます。今年も暑い夏を乗り切りましょう。
──熱中症チェック項目──
【1】顔がほてっている
【2】排尿回数が少なく尿の色が濃い
【3】汗を大量にかき、汗がなかなか止まらない
【4】逆に暑い中でもまったく汗をかかない。汗がベトベトしている
【5】体に触ると熱い。または皮膚が赤く乾いている
【6】体がだるく頭痛や吐き気がする
【7】筋肉の痙攣(こむら返り)がしばしばある。または筋肉痛だ
【8】めまいや立ちくらみなどの症状がある
【9】喉がとても渇いているのに水分補給ができない
【10】まっすぐ歩けない。意識が朦朧としている
※いずれも「熱中症」を疑う兆候です。特に、【9】や【10】では、すぐに医療機関を受診してください。
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。