ついこの前、新年度がスタートしたと思ったら、あっという間にもう5月ですね。5月といえば、新社会人や転職、異動などで4月から新生活を始めた人が、新しい環境になじめず、ストレスでうつ状態になりやすい季節です。
五月病という言葉を誰がいつ頃から言いだしたのかはわかりませんが、その原因や症状には、「うつ」のような要素を含んでいることは間違いありません
ということで、今回のテーマは「うつ病」です。ストレスなどが原因で気分が落ち込み、何をしても気分が晴れず、うれしいことに対しても喜びがなくなってしまう「うつ病」は、食欲が衰えたり、眠れなくなったり、不安になったりなどの症状を伴います。最悪の状況になると、「自分には何の価値もない」などと感じるようになり、ついには自殺にまで結び付くことも珍しくはありません。
通常は、2週間以上にわたってうつの症状が連日続き、生活に支障を来している状態になると「うつ病」と診断されます。最近では、「うつ病」という病名とともに、“気分の障害”と呼ばれることも多いようです。また、「うつ状態」という言葉が使われることもありますが、これはうつ病までは病が進んでいなくても、うつ病の一歩手前の予備軍のことです。
厚生労働省の調査によると、国内のうつ病患者数はこの10年間で2倍以上に急増。2008年には初めて100万人を突破しています。また、きわめて残念なことながら、毎年6000人以上の方が、うつ病をこじらせ自殺に至ってしまったという報告があります。現代はストレス社会などと言われていますが、21世紀に入ってますますストレスが深刻化しているのではないかと考えられます。
問題なのは、その「うつ」が少し休養すればよくなる一時的なものなのか、それとも、症状が重く早急な対策を要するものなのかを“自分自身で判断することが難しい”ことです。
ですから、家族や職場の人たちが、その人の状況を理解してあげて、「病院へ行ったほうがいい」と勧めてあげることも大切です。
今回のチェック項目(ページ下部)も自分だけでなく、周囲に当てはまる人がいないかどうか、チェックしてみてください。うつ病になる危険性が高いのは、粘着気質や完璧主義の人です。一度こうと決めたら絶対に最後までやり通さないと気が済まず、妥協を許さない。【1】~【4】はそういう人がとりやすい行動ですね。こうした人は自分に厳しい分、他人にも厳しいので、【6】【7】に当てはまる人も要注意。また、【8】【9】のように、みんなからいい人だと言われている、あるいは、いい人だと思われたい願望が強い人なども危険です。思い当たる人はいませんか?
「うつ」になりやすい性格には、先ほど述べた粘着気質や完璧主義に加えてもう一つ、「メランコリー型性格」というものもあります。責任感が強く、几帳面で、仕事熱心です。また、他人の目や評価を気にして、「人に頼まれるとイヤとは言えないタイプ」とも言えます。
こうしたタイプの人は、周りからの信頼も厚く、頼りにもされていますから、一見、環境への適応はたいへんいいように思われます。しかし実は、人に対して気を遣いすぎて、ストレスをため込んでしまいがち。あるいは、大変な場面でも自分自身の心や体の疲れを省みず、頑張り続けてしまいます。そのため、疲れがたまり、ついには「うつ」になってしまうことが多い傾向にあるという、痛ましい医学的現象があるのです。このような人たちは、少しだけ仕事量を減らすこと、手を抜くことを考える訓練をする必要があると思います。人の性格はなかなか変わらないかもしれませんが、自分自身が少し気をつけること、そして、周囲からも配慮してあげることなどを、みんなで考えてください。
以下、うつ病にならないための、あるいは、うつ病を再発しないための、具体的な生活習慣をあげてみました。これらを参考に、自分自身をコントロールする術を身につけましょう。
1 自分自身を知る
性格を変えることは簡単ではありませんが、真面目で几帳面、責任感が強く完璧主義、といった性格を自覚していると、ふだんから無理をしない、ストレスの原因となるものを避ける、などの対処が可能になります。
2 ゆとりのある生活をする
何事にも完璧を目指すのではなく、八分目ぐらいがちょうどいい、と考えるようにしましょう。休んだ遅れを取り戻そうとしないこと。気持ちに余裕を持たせることが必要です。
3 物事に優先順位をつける
大切なものから順に片づけましょう。終わらなかった時は、明日やればいい、と考えたほうが効率的な場合が多いものです。
4 何でも自分だけで抱え込まない
自分1人で全てのことをこなそうとすると、自分の能力以上のことを抱え込むことになり、ストレスがたまります。自分の限界を知り、セーブしてください。また、1人で思い悩まず、友人や家族など、信頼できる人に相談してください。
5 マイペースな生活を
肩の力を抜いて、マイペースな生活を心がけましょう。全ての人に自分を理解してもらおうなんて思わないように。他人にどう思われようが、あまり意識しすぎてはいけません。
6 生活の変化に注意
生活に大きな変化があった時は要注意。昇進や昇格などの喜ばしい変化でも、うつ病の原因となることがあります。心や体に疲れがたまらないように、十分な休養が必要です。忙しい時こそ、家族や友人と話す時間を作るなど、意識してリラックスすることが大切です。
次回は、もし、うつ病になってしまったらどうしたらいいか、「うつ病の治療」についてお話ししたいと思います。
──うつ病チェック項目──
【1】外食の時、いつも同じメニューを注文する
【2】テレビの連続ドラマは撮りだめして一気に観るほうだ
【3】休日でもびっしりスケジュールを組まないと気が済まない
【4】携帯やスマホを1日30回以上チェックしてしまう
【5】飲み会では1円単位で割り勘をしたい
【6】行列に割り込んでくる人を許せない
【7】待ち合わせに1分でも遅刻されると腹が立つ
【8】周囲に敵をつくりたくないという考え方だ
【9】周りの人からよく「いい人だ」と言われる
【10】気になることがあると、いつまでもひきずってしまい、夜も寝られないことがしばしばある
※0~3個は経過観察、4~6個は要注意。7個以上はうつ病になりやすいと思っていてください。
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。