北島三郎、五木ひろし、前川清ら演歌界の大御所が所属する「日本歌手協会」。発足から50年以上の歴史ある親睦団体だが、近年は財政難に陥っているという。そのシワ寄せは、会員である歌手たちにも及び‥‥。
「今の協会は、ただの集金マシーン。事務局の運営に金がかかるのは理解できるが、『歌い手の権利と利益を守る』のが設立目的だったはず。ところが、実際は会員から搾取するばかりです」
こう不満をぶちまけるのは、協会関係者。続けて、こんな“金集め”の実態を明かす。
「会員の歌手たちは2万円の年会費を納めていましたが、その会費を一昨年、突然3万円に値上げしたんです。そればかりか、協会は会費収入を増やすために、やみくもに会員を増やそうとしているのです」
協会の会員規定には「日本国内を拠点に活動しているプロ歌手」とある。63年の発足当初、134名だった会員は現時点で約550名に膨れ上がっている。
「言い方は悪いが、スナックでママをしている素人歌手まで正会員にしている。CDデビューしたといっても自主制作で、誰だって出せますよ。日本を代表する歌手が名を連ねる協会の正会員といえば大きなステータスでした。それが入会のハードルを下げたことで、ベテラン会員からも不満の声が上がっている。また、カラオケ教室を開く際の客寄せ看板くらいにしか考えていない入会希望者もいます」(前出・協会関係者)
「プロ歌手」量産だけではない。現会員が絶対匿名を条件に打ち明ける。
「協会は夏と秋に『歌謡祭』という大イベントを開催します。その舞台で有名歌手と同じ舞台に立つためには、別の協会主催のイベントで1枚5000円以上するチケットを50枚、60枚とさばかなければならない。売れなければ自腹で、新人歌手には大きな負担です」
キツいノルマをこなすため、スナックのママが、常連客に手売りする姿が思い浮かぶ。とてもプロ歌手とは呼べない状況だ。
実は、そんな体制に「NO」を突きつけた大物歌手がいる。
「一時、橋幸夫さんが協会の幹部になって改革に乗り出した。橋さんが訴えたのは新人歌手のPR支援。ラジオの枠を買い取って、新人に新曲発表の場を与えようとしたが、『金がかかる』という理由で却下された。憤慨した橋さんは幹部職を辞すだけでなく、退会してしまった。5年ほど前のことです」(前出・協会会員)
真相はどうか。協会を直撃した。以下は担当者との一問一答である。
── 橋幸夫が協会の体制を批判して退会した?
「橋さんが退会した理由はわかりません。突然の申し出に協会内でも驚きの声が上がったほどです」
── プロとは呼べない素人を会員にしているのは?
「プロかどうかの線引きは非常に難しい。歌で食べていける人はもちろん、食べていこうと努力している人にも門戸を開放しています。たとえ自前でCDやテープを作っているような人でも、協会の審査を経たうえで、認定しております」
── 協会主催イベントのチケット販売を会員に強要している?
「ステージを作るには、会場費、設営など莫大なお金がかかります。こちらから出演をお願いするようなスターの方たちは別として、出演を希望される会員の方に『出る以上はチケットを売ってください』とお願いすることはあります」
── 会費を値上げした理由は?
「所属会員が歌った曲がテレビなどで使われた場合、歌唱印税などの使用料が発生します。かつてはこのお金を協会で一括管理していたのですが、文化庁の通達によって、数年前から各個人に分配しています。この個人分配への切り替えによって、主な収入源がなくなったことが大きい。協会の存続が危ぶまれる事態も懸念されて、熟慮の末に、会費を値上げしました」
浮かび上がった協会のジリ貧内幕。「演歌の心」で耐える時か──。