芸人から作家に転身してから10年後、小説が売れなくて、ふと思い立って芸人のインタビューを夕刊紙で始めたオレ(作家・元芸人:松野大介氏)。それをまとめた単行本『芸人貧乏物語』(講談社)がついに出版される。発売を前に、4年かけて聞きだしてきたリアルで笑える“貧乏秘話”を紹介しよう。
貧乏芸人につきものといえば、まずは「住まい」の悲惨さだ。
サンドウィッチマンのように下積み時代、コンビで同居していることは珍しくない。
「相方と2間の古アパートに暮らした10年は相当に貧乏でしたねえ。天井にクモの巣はあったし、ゴキブリは当たり前。なんとネズミも出ました! 米びつの米に黒いモンが混ざってて、『富澤(たけし・41)がはやりの五穀米を買って混ぜたんだなあ』と思ってお釜で研いでたら、黒い米が溶けて水が黒ずんできた! 『うわ! ネズミのフンだ!』と」(伊達みきお・40)。
大格闘の末、ネズミホイホイで退治したという。
一方、ナイツ・塙宣之(37)が語る、大学落研時代の貧乏暮らしは意外に恵まれていたようだ。
「家賃1万8000円の4畳半のアパートには、エレキコミックのやついいちろうさんやアニマル梯団さんとか、芸人になる人も多くいた。今思えば芸人版“ときわ荘“。みんな貧乏なのに働かないから、食い物屋でバイトしてるヤツの“廃棄待ち”なんスよ。コンビニでバイトしてるヤツは、僕が寝てる深夜に勝手に戸を開け、冷蔵庫にそっと弁当を入れてくれた。起きると枕元の冷蔵庫を開けて『あ、空揚げ弁当だ! サンタさん、ありがとう』って(笑)。貧乏なのにコレステロールは高かったですねえ」
ボロアパートに住むのは、女芸人も同じ。“女の子がよくそんな部屋に住めるよなぁ”と感心してしまったのはチキチキジョニー。
「トイレ共同の1間で家賃1万9000円のボロ。エアコン取り付けたらヒューズが飛んだ(笑)。ある夜、ギシギシと音がして『ナニナニ?』と目を覚ましたら、雨水が天井の1か所にたまって反ってる。すぐに重さに耐えかねて天井が破れて泥水がドバーッと落ちてきた!」(石原祐美子・39)
1万円台の家賃に住む芸人の中でも、最安値は、80年代に「お笑いスター誕生」(日本テレビ系)で頭角を現した、取材当時ですでに還暦手前だったベテラン芸人・ブッチャーブラザーズのぶっちゃあさん(60)。
「荻窪の『学生紹介』の不動産屋で見つけた部屋が1万5000円。生まれて初めて3畳間に住みました(笑)。3畳と靴が1足置けるスペースしかない」
離婚をきっかけに貧しくなってしまったのだ(入り組んだ話なのでぜひ本を読んでいただきたい)。芸人も人間、生きているといろんな苦労があるものだ。
若手芸人にネタのダメ出しをし、若手の稽古を長年やっている、ぶっちゃあさんは、2000年代の芸人ブームの東京方面を下から支えている方だとオレは思う。
◆プロフィール 松野大介(まつの・だいすけ) 1964年神奈川県生まれ。85年、ABブラザーズとして「ライオンのいただきます」(フジテレビ系)でタレントデビュー。テレビ、ラジオに多数出演。95年、小説「ジェラシー」が文學界新人賞の候補になり、同年に小説家デビュー。98年、芸人小説のさきがけ「芸人失格」が話題に。著書多数。夕刊紙・日刊ゲンダイにテレビコラム掲載中。現在はウェブマガジン「小説マガジンエイジ」にて「愛の沖縄WandeR LAND」を毎週掲載(無料&登録ナシ)