記録的な暑さとなった今夏、皆さんいかがお過ごしですか?このコラムが出る頃には、さすがに史上最高気温を更新するような暴力的な暑さは少しは和らいでいるでしょうが、依然厳しい残暑の日々が続くことが予想されます。先週号で取り上げた「夏バテ」にはくれぐれもご注意ください。
さて、今回は「夏バテ」の一つとも言える「冷房病」です。前回では、「冷房病」を「夏バテ」に含める人もいれば、別に分けて考えるべきという意見もある、ということで、「冷房病」を除いた従来の「夏バテ」をテーマとしました。そこで今回は、「冷房病」だけにスポットを当ててみたいと思います。
「冷房病」とは、その名のとおり、冷房による体の冷えすぎと、冷房の効いた室内と暑い屋外との温度差に体がついていけなくなること。冷房がもたらす寒暖差により、自律神経のアンバランスが原因で起こるさまざまな症状のことを言います。
うだるように暑い屋外と、涼しい冷房の効いた室内とを行ったり来たりしていると、自律神経に乱れが生じます。自律神経は、涼しくなると交感神経が働き、皮膚血管を収縮させ、発汗を抑制します。一方、暖かくなると、副交感神経が働き、皮膚血管を拡張させ、発汗を促します。こうした自律神経の働きが崩れることによって、体のだるさ、胃腸のトラブル、頭や腰の痛みなど、いろいろなプチ不調が生じるのです。自律神経が支配している血管は全身にあるので、体のどこにプチ不調が出てもおかしくありません。体の冷え、疲労感、肩凝り、頭痛などから始まり、放っておくと神経痛、腰痛、腹痛、食欲不振、便秘、下痢、頻尿、不眠等にまで発展します。
では、チェック項目(ページ下部)を見てみましょう。【1】~【5】、冷房病になりやすい「冷房病予備軍」です。【1】汗をあまりかかない人は、外気温に対して、体温を調節する仕組みが発達していないので、「冷房病」になりやすいと言えます。【2】ストレスが多いと、自律神経の働きが衰えます。【3】タバコのニコチンには、手足の血管を縮める働きがあり、冷え性になります。【4】もストレスに弱い人の特徴です。【5】のように体の一部が冷たい人は、その部分の血液の流れが滞っている証拠です。神経痛や頭痛、腹痛などの冷房病の症状が出てくる前に、何かしらの対策を講じたいものです。
【6】~【10】に当てはまる人は、もしかしたらすでに「冷房病」にかかっているかもしれません。
では、どんな対策をとったらいいか。対策その1は、“生活環境”です。冷房を調節して、室内と室外との温度差を、可能であれば5℃以内にとどめてください。また、冷風を直接、体に当てないよう心がけましょう。
毎日の生活の中で、ストレッチをしたり、軽く汗をかく程度の運動を習慣として取り入れることも大切です。入浴は、シャワーだけでなく、湯船につかることが重要。ぬるめのお湯にゆっくりつかるようにしてください。服装は、カーディガンや厚手の靴下などを利用しましょう。最近はユニクロなどで冷房病対策の下着や洋服も売っていますので、これらを使うのもいいと思います。
対策その2は、“食事”です。基本は朝昼晩、三食きちんと食べること。そして、ショウガやネギ、ニンニクなど、体を温める食材を積極的にとりましょう。私のおすすめは、韓国料理です。暑い時こそ、熱々の韓国料理を食べると元気も出て、冷房病対策になると思います。
また、お肉などのタンパク質は、熱の源となります。青魚やナッツに含まれるビタミンEは、血行をよくしてくれます。豚肉、ゴマ、玄米などに含まれるビタミンB群は、栄養素をエネルギーに変える働きがあります。これらの食材を上手にとることで、「冷房病」になりにくい体を作ることができます。
対策その3は、“手と脚ストレッチ”です。いつでもどこでも簡単にできるので、ちょっと紹介してみます。まず手のストレッチは、(1)おにぎりを握る感じで両手を組み合わせ、右手で左手を外側へ反らします。(2)反対向きも同じように、左右交互に3秒を5回ずつ繰り返しましょう。
次に脚のストレッチは(1)靴を脱ぎ、足を軽く開いて立ち、かかとをぐっと上げて、3秒間そのままの状態でキープ。(2)床につかないくらいかかとを下げたら、また(1)に戻り、めいっぱい爪先立ちで背伸びします。足というよりはふくらはぎの筋肉を最大限に使うよう心がけてください。
このストレッチは、もともとは「冷え性」に効くものとして考案されたものです。冷え性といえば、成人女性の8割が悩んでいるとも言われており、女性特有の病気と思われがちですが、近年は男性も冷え性が増加しつつあります。冷え性の症状としては、手足が冷える、体が冷えて眠れない、腹痛や下痢を起こしやすい、トイレが近い、腰痛や肩凝りが治りにくい、といったものがありますが、これ、冷房病と似ていますよね。つまり、冷房病には“夏の冷え性”という一面もあるので、冷え性への対策が冷房病対策にもつながるというわけです。
冷え性は男性にも女性の4分の1で起こり、近年“男性の冷え性”が注目されつつあります。ちなみに“男性の冷え性”は仕事のプレッシャーやストレスが関係していることが多いのが特徴です。ストレスが多いと、交感神経が高ぶった状態になるため、血管が縮まり、冷え性になるのです。また、タバコも“男性の冷え性”の原因の一つになります。タバコは急激に血管を収縮させてしまい、血液の流れを悪くするとともに基礎代謝も低下させてしまうため、それが冷え性に結び付きます。
この冷え性についてはまたあらためて別の稿で取り上げたいと思いますが、冷房病も冷え性と似た要素があり、体の冷えに注意し、体を温める食事をとり、適度な運動やストレッチが大切であることは覚えておいてください。
冷房病や夏の冷え性に気をつけて、夏を乗り切りましょう。
──冷房病チェック項目──
【1】暑いときに外へ出てもあまり汗をかかない
【2】ストレスが多くイライラすることが多い
【3】タバコをよく吸う
【4】胃けいれんや顔面神経麻痺などにかかったことがある
【5】手足、お腹、お尻など、体の一部が冷たい
【6】腹痛や下痢を起こしやすい
【7】夜、寝ようとしても眠りにつけない
【8】朝から疲労感がある
【9】食欲があまりない
【10】頭痛や肩凝り、腰痛など、体のあちこちが調子悪い
※【1】~【5】は冷房病になりやすい「冷房病予備軍」。【6】~【10】はすでに冷房病かもしれない症状です。
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。