先月、胆管がんにより、54歳の若さで急逝された川島なお美さん。5月には同じく54歳で今井雅之さんが大腸がんで、今いくよさんも胃がんで亡くなっています。他にも愛川欽也さん、坂東三津五郎さん、柔道の斎藤仁さん、シーナ&ロケッツのシーナさんなど、今年は特にがんで亡くなった有名人が多いような気がします。
また、元女子プロレスラーの北斗晶さんも先月、乳がんの闘病中であることを公表しました。無事に治癒されることを心よりお祈りしております。がんは、一般の健康診断や成人病健診では発見されないことがあります。皆さんも定期的にがん検診を受けることをおすすめします。
北斗晶さんの乳がんが女性特有のがんだとすると、男性特有のがんが「前立腺がん」です。男性だけが持っている生殖器官の一部である前立腺は、大きさや形がちょうど栗の実くらいで、膀胱のほぼ真下にあり、尿道を取り囲んでいます。そして精液の一部となる前立腺液を分泌したり、膀胱の出口を開け閉めしたりする働きをしています。
「前立腺がん」は、アメリカではすでに10年前ほどから、男性のがんの中で最も高い発生率となっています。日本においても、2015年のがん罹患者数予測で9万8400人と、男性で最も多いがんとなっています(国立がん研究センターによる)。日本人の前立腺がんによる死亡者は15年には1万2200人と予測されており、00年の2倍以上、95年の約3倍になると推定されています。この死亡数増加率は、全てのがんの中で最も増え方の激しいがんであると言えます。
「前立腺がん」が急増している背景には、(1)日本人の寿命が延びた、(2)食生活の変化、(3)PSA検査の開発・普及、の3点があげられます。
前立腺がんは進行が比較的遅く、俗に「高齢者のがん」と言われるように、年齢を重ねるごとに発見率が上昇します。他のがんでも同様ですが、高齢になればなるほど細胞ががん化しやすいからです。
また、日本人の食生活が、戦前の炭水化物中心の食事から、欧米化していることが前立腺がん増加に深く関わっているとされています。特に動物性脂肪が多く、緑黄色野菜が少ないことが、危険因子としてあげられています。
従来、前立腺がんは直腸診などで発見するため、がんがかなり大きくなってからの診断が多かったのですが、近年、PSA検査(血液検査)というものが登場し、早期から発見できるようになりました。血液検査だけでできることから、50歳前後の比較的若い人にも実施され、早期発見につながっています。
では、チェック項目(ページ下部)を見てみましょう。
【1】は、50歳以上で3割、80歳以上であれば6~8割に前立腺がんが見つかると言われています。
【2】は、血縁者に前立腺がんの患者がいると危険率は高くなります。米国での調査によると、父親あるいは兄弟に前立腺がん患者が1人でもいる男性は危険性が2倍、2人いれば5倍になるという報告があります。
【3】~【5】は食生活の欧米化ですね。乳製品も含む動物性脂肪が前立腺がんの危険因子であることは有名です。逆に、大豆、緑黄色野菜、トマト、緑茶などは前立腺がんの発生予防に効果的だと言われています。
以下は、前立腺がんに限らず、がんになりやすい生活習慣です。思い当たる人は気をつけてください。性活動が活発な人は、男性ホルモンがたくさん分泌されている可能性が高く、前立腺がんになりやすいとも言えます。
前立腺がんの治療方針は、がんの病期(ステージ、進行度)、組織学的分化度(悪性度)、患者さんの年齢、合併症の有無などによって選択されます。最終的には医師と患者さんが話し合い、合意・納得のうえで決定されます。いくつかの治療を組み合わせて行うこともあります。
手術には、前立腺全摘除術と精巣除去術または除睾術があります。
前立腺全摘除術は、がんを含めた前立腺、精嚢、リンパ節を取ってしまう方法です。
精巣除去術は、精巣(睾丸)を取ることによって体内で作られる男性ホルモンをなくそうとするものですが、同じ効果を示す薬剤が他にあることや、患者さんの抵抗感などもあり、最近ではあまり行われていません。
転移がなくステージBくらいまでであれば、前立腺全摘除術によって完全に治る可能性が高いと言われています。しかし術後、一部の人に尿失禁が見られたり、性機能障害が起きたりすることもあります。
前立腺がんは、1つのがん細胞ができて、それが増殖し、治療を要するようになるまで一般的に40年近くかかるとされています。つまり、年齢を重ねるごとにがん細胞の数がゆっくりと増えるため、60歳過ぎくらいから発見率が高くなっていきます。これが「高齢者のがん」と言われるゆえんです。
また、前立腺がんの多くは、尿道や膀胱から離れた場所に発生します。そのため、がんが進行してある程度大きくならないと、尿道や膀胱を圧迫しにくいので、前立腺肥大症で見られるような排尿障害が起きにくく、自覚症状がほとんどありません。
がんが骨に転移して痛みを生じることもありますが、この場合は、がんがかなり進んだ状態と言えます。ですから、前立腺がんの治療を効果的に行うためには、症状が出る前にがんを発見することが非常に大切で、そのためには定期的にPSA検査を受けることが最も近道と言えるのです。
ちなみに前立腺がんには、前立腺肥大症を合併していることが少なくありません。そうした患者さんであれば、早期がんでも自覚症状が出ることがあります。
具体的には、尿が近くなる、いきまないと排尿できない、排尿に勢いがなく時間がかかる、残尿感がある、尿意があるのに尿が出ない、尿漏れする、といった症状があれば、前立腺肥大症だと決めつけず、泌尿器科の受診をおすすめします。
前立腺がんだけでなく、全てのがんに言えるのは、「早期発見・早期治療」の大切さ。年に1度はがん検診を受けましょう。
──前立腺がんチェック項目──
【1】50歳以上である
【2】父親や兄弟など、血縁者に前立腺がんの患者がいる
【3】チーズ、牛乳などの乳製品が好きだ
【4】肉類など、動物性脂肪が多い食べ物が好きでよく食べる
【5】緑黄色野菜が嫌いであまり食べない
【6】日頃、運動をほとんどしていない
【7】肥満である
【8】性活動が活発である
【9】生活パターンが一定しておらず、不規則な生活をしている
【10】ストレスが多い
※3個以上あてはまれば経過観察。4個以上もしくは【2】に当てはまる人は、なるべく早めにがん検診を受けましょう
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。