今年のプロ野球で最も注目を浴びた監督といえば、新規参入した横浜DeNAの中畑清監督だろう。人なつっこい笑顔と陽性のキャラクターで、弱小チームの救世主となるのか。オープン戦では、好成績を収めたチームの変革に迫った。
中畑流パフォーマンスの真意
「ファンと一体」というフレーズは、中畑清(58)が横浜DeNAの監督に就任して以来、何度となく口にしてきた言葉だ。
3月27日、必勝祈願のため、ファン1500人を引き連れて、鎌倉の鶴岡八幡宮を参拝した時も同じだった。本殿に向かう階段の脇に、台風で倒れてしまった銀杏の古木があった。そこから新芽が生え、生命の強さを感じ取れるものだった。中畑はそれをちりと見た。表面に出すパフォーマンスとは違い、大事に心の中にしまっておきたいことに対しては、さりげなく、そのまま押し黙る感性も中畑独特のものである。
「野球は選手がやるものだ」と賢者の格言にある。
だがその一方で、「一人の力で野球は大きく変わるんだ」という言葉もある。今年の横浜DeNAの中畑に関しては、完全に後者である。
監督就任以来、続いたド派手な中畑のパフォーマンスに、負け犬根性で育ってきた選手たちは、素直になれなかった。「どうせまた、口先だけだろ」と新監督の様子を見ていたところがあった。
だが、中畑の心中には去来するものがあった。
「キャンプの時から、熱くなれ。最後まであきらめるなと言い続けてきました。前向きな行動には、失敗しても決して責めるつもりはな「キャンプの時から、熱くなれ。最後まであきらめるなと言い続けてきました。前向きな行動には、失敗しても決して責めるつもりはならスタートしたかった。自分は頭でっかちが嫌い。現場や頭で考えるよりも感性を大事にしたいタイプ」
中畑は、真面目な野球論を語った自分に照れくさくなったのか「なんちゃってね」と最後は笑いでごまかした。
マスコミを通じて、横浜の選手に伝わるのは、周囲や観客に対するパフォーマンスの部分だ。
だが、選手の中畑への評価は対外試合で覆ったに違いない。中畑が初めて指揮を執った2月16 日の日本ハムとの練習試合で、その片鱗はうかがえた。
相手は理論派の新監督の栗山英樹(50)。相手の期待の星・斎藤佑樹(23)を攻略したが、逆転負けをしてしまった。初采配での屈辱だった。本来なら悔しいはず。打たれた投手へ愚痴の一つも言いたくなるはずだが、出てきた言葉は違っていた。
「9回の粘りがよかった。最後まであきらめないという姿勢が我々の求めていたものだった。今日は選手をホメてあげたい」
と言いながら、ベンチ上で声援するファンに対して「負けちゃった。ごめんね」と手を振って謝った。横浜が好きだから応援に来るファン。そこで監督みずからに謝られたら、悪い気はしない。「勝つまで来よう」と心の中で決意したファンも多かったはずだ。
しかも、3回登板予定の今季期待の小林太志(28)が、わずか2回で降板する誤算もあった。
「攻めて打たれたのなら、しかたがない。逃げての四球は腹が立つ。四球を出すくらいなら、打たれて来い。見送りの三振をするくらいなら、空振り三振をしろと言います。みんな、そういう姿勢でやっているのに、それができない連中は外します。輪に入れないのがいると、ムードが悪くなりますから」
中畑は毅然と言い放った。