チームの雰囲気を一変させた「脱落合」戦略
昨年のセ・リーグの覇者・中日ドラゴンズは、あえて"名将"落合博満氏を解任し、髙木守道新監督にチームを委ねた。その狙いは、人気回復と「現状維持」でのリーグ制覇に他ならない。70歳の最高齢指揮官に、周囲からは不安の声も上がるが、本人はいたって意気軒昂。静かな闘志をメラメラと燃やしているのだ。
年齢を感じさせないフットワーク
今年に入って「ここに来てよかったな」という気分になったのは、いずれも中日の髙木守道新監督(70)と挨拶を交わした時のことだった。
中日のキャンプ地の北谷、3月10日には日本代表チームのコーチとして、台湾代表との被災地復興のチャリティマッチに参加した東京ドームや、オープン戦もしかり。
筆者は、髙木守道の顔を見かけるや「こんにちは」と声をかける。そうすると必ず「こんにちは」と落ち着いた口調で返してくれる。昨年までとはまったく違う風景だ。中日の"前任者"の落合博満は挨拶をしても知らん顔。自分だけに対してかと思えば、誰に対してもである。
ただ一人、元気に声をかけてくれたのが、森繁和ヘッドコーチだけ。そんな森の姿を周囲のスタッフは冷ややかに見るだけだった。それが今年はまったくない。チーム内に穏やかな空気が漂っている。
若手ルーキーの高橋周平(18)がデッドボールを受けたという話になった。「いいものがあるし、(一軍に)使わない理由もないしね。デッドボールを受けたらしいね。やっぱり当たっているんだ」
横浜DeNAの中畑清のダジャレとも違う、ポツリとこぼす言葉に性格がにじみ出る。どこまでがシャレなのか、わからないものがあるが、周囲の笑いを誘ったのも事実だ。
髙木は監督就任早々、東海(地方)文化圏で活躍した選手や中日OBを中心としたチーム作りの構想をぶち上げていた。事実、コーチ陣を入れ替え、現役時代に中日で活躍した往年の名選手ばかりを集めた。打撃コーチの宇野勝(53)、外野守備走塁コーチの平野謙(56)は現役時代にタイトルを獲得している。「中日もこんなすばらしいOBがいるのに」という髙木からのメッセージがうかがえる。
こうした中日のオールドファンが喜びそうな人事は髙木自身の計算だけではなかった。親会社・中日新聞社の戦略であるのは十分わかっているのだが、それを平気で飲み込んでしまうところに、年齢的な大きさを感じてしまう。監督付き広報担当の松永幸男が言う。「前監督と比べても、70歳という年齢を感じさせないほど、よく動くんです。やはり、戦争中に生まれた人には強さを感じますね」
実際、監督就任直後からの行動は、年齢を感じさせないものがあった。就任早々、電光石火で中日後援会会長を訪れているのも前監督とは対照的だ。「自分が頭を下げて済むことであるならば、いくらでも下げますよ」という姿勢を貫いている。
そうした目配りこそが、髙木の真骨頂と言えよう。
そして、愛知が生んだ大メジャーリーガーのイチロー(マリナーズ)についても「父親とは懇意だし日本に戻るならば、いちばん先に声をかけたい」と言ったかと思えば、キャンプでは昨年一度も一軍登板のなかった山本昌(46)を開幕投手に指名するなど、どこまで本気かわからないが、リップサービスを不器用ながら尽くしているのは全てファンのため。そうした髙木の心中は、最近の発言からも十分に理解することができた。