去る3月31日に、内閣府の有識者会議が発表した、近い将来の発生が懸念される「南海トラフ地震」の被害想定。それによれば、「南海トラフ」でM9クラスの巨大地震が発生すると、津波高が東京の新島で29・7メートルとなるなど静岡、愛知、三重、和歌山、高知、東京の6都県に20メートルを超える大津波が襲来。さらに高知県黒潮市では津波高は34メートルにもなるといい、これまでの想定を大幅に上回る最悪の被害想定となっているのだ。
ところで、「トラフ」とは海溝のこと。駿河湾から四国沖に延びる「南海トラフ」は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界で、周辺では過去に何度か大地震が発生している。
1605年の慶長大地震(M8)は、千葉県の犬吠埼から九州にかけ巨大津波が押し寄せているが、これは南海トラフの東海、東南海、南海の3つの震源域で同時に発生した連動型の巨大地震と考えられている。
一方、1707年、富士山が大爆発(宝永の噴火)した1カ月前にも、南海トラフで連動型の巨大地震(M8・7)が発生し、多数の犠牲者を出している。
東海大地震予知研究センターの竹内昭洋特定研究員が言う。
「今回、内閣府が発表した想定は東日本大震災の直後ということで、最悪の想定をしているので、30年以内に88%と言われる東海地震が起きたからといって、必ず連動型の巨大地震になりM9を記録するとは限りません。ただ、最近、日本列島は岩盤にこれまでとは異なる力がかかり、動かなかったところが動いて非常に不安定になっていることは事実です」
過去にも、巨大地震が間を置かず別の場所で起きているケースも複数ある。1854年(安政元年)に発生した東海地震の翌日に南海地震(M8・4)が、1944年に発生した東南海地震(M7・9)の2年後の46年には南海地震(M8・0)が起きているのだ。「しかも、東海地震の震源域の御前崎付近の地盤は今沈降している。これが止まった時が危ないと言われています」(防災に詳しいジャーナリストの村上和巳氏)
では、南海トラフで巨大地震が発生した場合、首都圏はどうなるのか。
地震発生後、約100分で津波は東京湾の最奥に到達。先の被害想定では千葉・館山に9メートルの津波が押し寄せるという。それは浦賀水道を経て、しだいに減衰、湾奥(都内)に到達する頃には2メートル前後の津波となる。