昨年10月よりスタートしたテレビアニメ「おそ松さん」(テレビ東京系)が空前の大ブームとなっている。故・赤塚不二夫原作の漫画「おそ松くん」のリバイバルだが、20代の大人になった六つ子に萌える女子が激増しているという。
「雑誌が増刷に至ったことは本当にありがたいことだと思っています。同時に『手に入らない!』という方々にも申し訳なく、おそ松さんの人気のすごさをあらためて実感しています」
月刊アニメ誌「アニメージュ」(小社刊)編集部「おそ松さん」担当の鈴木雅展氏はこう話す。「おそ松さん」を表紙にした16年2月号は発売と同時に売り切れ、1980年から約36年ぶりに“重版”となった。刷っても刷っても売り切れの状態は、「事件」と言える出来事だ。
そればかりではない。関連グッズはどこに行っても品薄状態が続き、企画展を開けば2000人ものファンが殺到。原作の「おそ松くん」の(電子書籍)売り上げも、前年比で80倍も売れているという。
アニメ評論家の藤津亮太氏が解説する。
「今回のリバイバル版では六つ子それぞれにキャラクターを与えたのが大きいと思います。それによって人間関係が楽しめるようになり、ストーリーもおもしろくなったわけです」
藤津氏が言うように「おそ松さん」は、イヤミやチビ太というキャラクターが話の中心であった原作とは違い、大人になった六つ子だけで十分におもしろい“コント”を繰り広げている。さらにその六つ子たちの声を、今をときめく豪華声優陣が担当していることも人気の理由の一つである。
「この6人が、ここに集まっていることが、すでにすごいことですからね。ひとりひとりが主役級の声優さんですから」(前出・藤津氏)
それを証明するようにイベントには多くの女性ファンが押しかけた。元来、アニメ好きな女性には、男性キャラクターがワイワイとじゃれあっている関係性を好むという傾向があるそうだ。「おそ松さん」もそのような「チーム男子」感が出て、萌えた女性からの支持が増えた。これがブームを支えているのではないかと言われているのだ。
だが、それは人気の要因の一つであり、本質的な理由ではないと藤津氏は言う。
「確かに、イベントに来ていたのは女性が多かったですが、ブラックジョークも多いので、男性も楽しんでいると思います。毎回毎回違うことをやってくるし、観ている方を安心させない。何が起きるかわからないところが、おもしろいんです。最終回では、SMAPネタでもぶっ込んでくるんじゃないかって噂もあったりと(笑)」
チビ太の経営するおでん屋でツケで飲んだり、イヤミの紹介する怪しいビジネスに手を染めたり‥‥藤津氏が指摘するように「おそ松さん」はかなり“ぶっ飛びな”内容になっている。昨年10月に放送された第1話は、多くのパロディが盛り込まれ、スタート直後から大きな話題になった。
ところが、その回がDVDには収録されないとアナウンスされると、「見逃したら二度と観られないかもしれない」という緊張感が生まれ、放送時間に視聴する人たちが増えるというミラクルが起きている。
実際、放送直後にはヤフーのリアルタイム検索や、ツイッターのトレンドが「おそ松さん」関連のワードに埋め尽くされる状態が続いているが、
「だけど、全ては偶然だったと思います。いまさら『おそ松くん』を観てもらえるか、不安だったんじゃないですかね。だから頑張ってたくさんサービスをしたら、それが過剰になってしまった。結果、それをファンが楽しんでいるんですよね」(前出・藤津氏)
むしろ、アニメというよりは「深夜バラエティ」と考えたほうがわかりやすい。この作品は「茶化せないものは何一つない」という赤塚イズムを継承したコント番組であり、最後まで何をやらかすかわからないヒリヒリ感が老若男女をトリコにしているのだ。
現在放送中の第2クールも大好評、今や「おそ松さん」は、全国的なブームになろうとしている──。