事件が発覚しなかったことで殺人が癖になったのか、今井容疑者が2回目の凶行に及んだのはそのわずか約1カ月後だった。丑沢さんと同室に入った、86歳の女性がベランダから落下したのだ。続けて、同年12月31日には、96歳の女性が6階のベランダから転落して、命を奪われたのだった。
3人が転落したベランダは高さ120センチの手すりが設けられていた。3人の身長は約150センチから160センチ。介護が必要だった高齢者が自力で乗り越えるのは難しく、遺書も発見されていなかった。それでも転落事件後に発表された施設の報告書には、「県警の現場検証の結果、転落による事故」と記されていた。警察は、いずれの遺体も外傷以外に目立った傷が確認されなかったため、司法解剖さえ行わなかったという。
「管轄の幸署は事故に疑惑を持ちながら、県警本部に報告をしていませんでした。殺人事件を見落として、完全犯罪が成立しようとしていたのです。逮捕は供述による部分が大きく、目撃者もおらず、事件性を裏付ける証拠も乏しい状況です」(社会部記者)
今井容疑者が転落死に関与した疑いが浮上したのは、転落死の発生から実に5カ月もたったあとの「窃盗事件」がきっかけだった。
昨年5月、70代女性の居室から現金2万5000円の入った財布を盗んだとして、今井容疑者を逮捕。捜査の過程でようやく捜査1課は転落が連続して起きていたことと、1件目と3件目の第一発見者が今井容疑者だったことに気がついた。
窃盗事件の公判では、これまで19件の窃盗を繰り返したことが明らかになっている。うち16件で示談が成立。218万円の示談金を支払っていることもあり、懲役2年6カ月、執行猶予4年の有罪判決を受けた。今井容疑者が窃盗を繰り返した動機について、前出の社会部記者はこう話す。
「入居者から盗んだお金で都内の高級ホテルに宿泊したり、高級鉄板焼き店での食事、プロ野球観戦などをしていました。職場の給料だけでは足りず、同僚には大学の救命センターの仕事を掛け持ちしていると説明していました」
職場で見栄を張りたかった理由は、一方的な「同僚女性」の存在にもあったようだ。今井容疑者を知る男性が話す。
「同じ職場で働く女性と交際していると聞いていました。ケチだと思われたくなくて、おごっていたようです。高校時代は彼女がいなかったようで、もしかして初めての彼女だったから、背伸びをしてきっぷがいい姿を見せていたのかもしれません」
施設側は窃盗容疑の逮捕直後、今井容疑者に懲戒解雇処分を下している。