この発言について、「若い有権者のための政治入門」(勉誠出版)の著者であり、国際政治学者の藤井厳喜氏はこう指摘する。
「まずトランプ陣営が日米関係の負担割合をちゃんと理解しているのか、疑問です。経費負担は韓国やドイツの3、4割に比べて、日本は約7割を負担。米国が負担すべき光熱費なども日本が出しています。100%払うとなれば、日本にいるアメリカ軍兵士の給料まで払うことになり、もはや『傭兵』と同じ扱いです。そこまで米国がプライドを捨てるならば、日本は払ってあげればいいでしょう」
それでも政治経験ゼロの大富豪の発言は、予測不可能な部分が多く、大統領に就任後、本当に実現することもありえない話ではないのだ。
「在日米軍が撤退」した場合、日本にとって最悪のシナリオが待ち受けていると、前出・藤井氏は続ける。
「中国は今がチャンスとばかりに、沖縄県の尖閣諸島に上陸することが考えられます。自衛隊を地上配備していない今の体制で守るのは難しい。例えば、民間人の格好をした中国の武装兵士が漁船で上陸してきたら、安倍内閣は迅速に自衛隊の出動命令を出せるのか。迷っている間に、1日もあれば乗っ取られてしまうと思います」
「政治とカネ」の問題が発覚して辞職した甘利明前経済再生担当大臣(66)の唯一の功績とされる環太平洋経済連携協定(TPP)も、トランプ氏は「ばかげた協定」だと猛反対している。
5月6日、中西部ネブラスカ州にて支持者の前で行った演説では、日本が米国から輸入する牛肉に課している38.5%の関税を話題に出して、
「もし日本が関税を維持するなら、同じことをやり返す。ネブラスカ産の牛肉に38%の関税をかけたいなら、米国で販売する日本の自動車に38%の関税をかけてやる! 単純なことだ!」
と高らかに公言して、聴衆から拍手喝采を浴びていた。前出・藤井氏はこう一蹴する。
「もし実行されれば、怒りだすのは日本人だけではなく、アメリカ人も同様です。日本車のトヨタやホンダなどが米国で普及している中、関税を引き上げれば価格も上がり、消費者が困惑するだけ。日本車が撤退ともなれば、(米国内にある)日本車工場で働くアメリカ人の雇用を奪う結果にもなるのです」
その一方で、6月2日には、これまで支持を表明していなかった、米共和党のポール・ライアン下院議長(46)が、11月の米大統領選で、トランプ氏に票を投じる考えを明らかにした。
「勝ち馬に乗れ」と言わんばかりに、共和党の有力者たちがトランプ支持に回り始めているのだ。
一騎打ちが予想される民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(68)をも飲み込む勢い。もはや「トランプ大統領」誕生のカウントダウンが始まったのか。