暑さの厳しい季節となりました。炎天下に冷房の効いたオフィスと環境の変化に体も悲鳴を上げやすい時期とも言えます。神経や血管などにある痛みのセンサーが敏感になりやすく、頭痛になりやすい人も多いのではないでしょうか。
ここで質問です。頭痛が起きた場合「こめかみ」と「後頭部」、どちらに痛みを感じるのが危険でしょうか。
健康な人で冷たいかき氷を食べると「キーン」という頭痛を感じます。これは「アイスクリーム頭痛」と呼ばれ、冷たいものが喉を通過することで三叉(さんさ)神経が刺激されて起こります。
この三叉神経とは頭部(こめかみ)から目、上顎、下顎に分かれており、痛みを感じる片頭痛を起こします。正しくは「頭の神経痛」で、脳の痛みではなく頭蓋骨の外側が痛むため、命に関わる痛みではありません。
疲れた時の目の痛みや虫歯の痛み、中耳炎による痛みなど、顔に近い痛みはそれぞれに原因があります。副鼻腔は目の上(前頭洞)、目の間(篩骨洞・蝶形洞)、目の下(上顎洞)と左右それぞれ存在し、例えば目の上の痛みを頭痛だと思い込むこともありますが、実は耳や鼻が痛みの原因であることも。
このように頭痛の種類はさまざまです。長時間パソコンの前で作業したことで目が疲れ、眼精疲労とともに起きた頭痛は「緊張型頭痛」と呼ばれます。両肩を上下させたり、椅子に座って前かがみになるなどリラックスすると治まります。
仕事から解放された週末、ストレスから解き放たれ血管が拡張して起こるのも片頭痛です。寝すぎや寝不足、空腹、疲労などの刺激も原因となり、頭痛以外に吐き気や嘔吐、下痢など随伴症状も伴います。もし片頭痛になった場合は痛む部位をアイスノンなどで冷やし、カフェインを適量飲み、暗い場所で横になると治まります。
この他、顔面神経痛は三叉神経が圧迫された結果、顔面に突き刺すような痛みや「電気が走るような」激痛を生じます。痛みから体力を消耗したり、うつ状態になることもある頭痛です。
これら以外にも頭の神経痛はさまざまな症状や要因から引き起こされます。日常生活のうえでは非常にやっかいですが、以上は脳から来る痛みではないため、命の危険が生じることはありません。
これに対し、後頭部は本来あまり痛まない場所です。せいぜい首から来る肩凝りですが、肩凝り以外の後頭部の痛みは原因が脳である可能性が高いのです。
例えば、くも膜下出血は「後頭部をバットで殴られたような痛み」と表現されますが、その前兆にもなりかねません。くも膜下出血以外にも脳腫瘍、髄膜炎、椎骨動脈乖離など脳血管障害の前兆となりうるため、いずれも命に関わります。
後頭部から脳に行く血管は2対4本の動脈が通っていますが、動脈は内中外と膜があり、いちばん内にある内膜に傷がつくと血管の壁の中に血液が入り、血管が裂けていきます。これが動脈乖離(かいり)で突然死を招く恐ろしい病気です。
また、乖離した場所から血栓という血の塊が血管を狭くすると脳梗塞となり、運動障害や言語障害が起こります。血管の壁が外側まで裂けて血管の外に血が漏れると、くも膜下出血となります。うなじから後頭部にかけて頭痛が生じた場合は解離性動脈瘤の可能性があり、若い人でも脳梗塞を引き起こしかねません。後頭部頭痛や片側の首の痛みなどが初期症状ですが、いずれにしろ後頭部の痛みは危険であり、すぐに治まらない場合は脳神経外科に診てもらいましょう。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。