巨人に連なる闇交遊について知るX氏だが、ふと現在の野球賭博事情について語り始めた。その前に補足しておくが、客が試合の勝敗に対して金を賭ける野球賭博では、賭けるチームが一方に集中しないよう、劣勢だと思われるチームの点数をかさ増しする、実力差を埋める形のハンデが、熟練のハンデ師によって付けられているという。
「野球の勝敗を分けるのは、誰が投げるかが大きいよな。でも、今は予告先発があるだろ? 予想がつきやすい分、ハンデも切りやすい。しかも、予告した投手が試合直前に故障で登板回避なんかになったら、賭博は無効になるんだよ。楽な時代になったもんだ。もちろん、くしくも巨人の江川が“百球肩”の理論を作ったせいで、先発の完投が減って試合が荒れる要素は増えたよ。それにしたって、昔はローテーションが確立されてないばかりか、先発投手が翌日に投げるなんてこともあったからな。そうなると、核心情報を持った協力者が必要になる。有名なのが巨人にいたAだよ」(X氏)
Aといえば、巨人を中心に数球団を渡り歩いた強打者。数多くのタイトルを獲得し、現役引退後も指導者として活躍した。そのAが山口組の密接交際者だったというのである。
「巨人だけでなく、他球団にも通じていたからか、各球団のピッチングコーチから情報を吸い上げてたっていうな。噂の域は出ないが、現役時代からやってたって話まである。でも派手にやってたのは巨人のコーチ時代だ。情報を流すだけじゃなくて、ハンデ師そのものをやってたってな」(X氏)
Aと山口組の交遊は、野球賭博に関わる以前から長きにわたっていて、その信頼関係は強固だったとまで語る。
「そもそも野球賭博の仕組みを最初に考えたのは、今回逮捕された三宅の矢嶋組という説がある。だけど、もっと別の大親分が考えたって話もあるんだ。Aが暴力団とつきあいがあるなんてことはよく知られた話だけどよ、実はその大親分とも昵懇だったって。当時は、14時に野球賭博のハンデが出回った。その前の13時半になると、Aが電話で組に伝えてきたっていうんだ。その電話を、舎弟ではなくて、大親分が直接受けてたってな。結局、そんな動きをしてたAはコーチを追われたけどよ」(X氏)
魅力的な見返りがあったのかもしれない。とはいえ、野球人として職場や誇りを失うリスクを冒してまで協力していたとしたら、確かに関係の深さがうかがい知れよう。
ましてハンデ師など、常人には想像もつかないほど神経をすり減らすという。
「あれは高校野球だったな。10年ぐらい前、ハンデ師が各対戦校の実力差を読んで、その日の全試合に大きなハンデを付けてたんだ。そしたら次の日、1試合目から3試合目まで想定以上に強いほうが勝っちまって、どれも10点差近くいったと思う。ハンデが意味なし。大損した、とある組織の会長が激怒して、そのハンデ師をさらって埋めたなんて話があるんだ。それぐらい野球賭博にハンデ師は重要でな、素人がおいそれと手なんか出せやしないよ」(X氏)
結果的に、Aが暗躍したという時代から四半世紀以上が経過しても、まだ縁が切れないかのように、巨人と山口組の名前が飛び交うとは皮肉である。