「同居の母親に認知症の傾向が出てきました。3人の孫のうち2人の名前を忘れてしまったり、同じ話を何度も繰り返したりします。今はまだ元気ですが、80歳を超えており心配でなりません。認知症を予防したいのですが、いい方法がありましたらご教授ください」
読者の方から、こんなお手紙をいただきました。
認知症は進行するほど、家族の仕事・家事に支障を来します。例えば夜に起きだして冷蔵庫の中をあさったり、深夜徘徊をしだすと家族は睡眠不足に悩まされ、精神的にもイライラしてしまいます。
今いる場所がわからない、自分が通った学校名を忘れた、食事をした記憶がないなどの「記憶障害」、アナログ時計の針を見ても時間がわからない、失禁してしまうなどの「見当識障害」、頭の片隅にある記憶をつなぎ合わせた結果の言葉=「作り話」(本人はウソだとの意識がない)など、一口に認知症と言ってもさまざまな症状があります。
認知症と聞くと「高齢者の病気」をイメージしますが、64歳以下で発症する若年性認知症は男性に多い症状です。症状が進行すると、仕事やプライベートでの大事な用事を忘れてしまい、深刻な場合は予定を組んだことすら思い出せない、となることもあります。
つまり誰でもなる可能性があり、いつなっても不思議ではないのが認知症で、家族にとってはやっかいな症状ですが、ここで問題です。
私が認知症対策でオススメするなら「麻雀」と「クロスワードパズル」のどちらでしょうか。
認知症予防のカギは「脳を活性化させること」です。脳の活性化には「指先を使う」のが重要です。中でも麻雀は「指先を使う」「役作りを考える」という2つの要素が脳に効果的な刺激を与えます。加えて、仲間内で小さく金銭を賭けるファミリーギャンブルも脳が活性化されます。仕事がまさしくそうであるとおり、人間はお金が絡むと頭を使うようにできている生き物です。
90歳になるおばあちゃんで、毎日健康麻雀に興じる人がいます。ゆっくりと牌をツモってくる彼女の姿を見ていると、認知症とは無縁だと感じます。
ペン(指先)を使う、頭を使うという意味ではクロスワードパズルもオススメです。考えて答えを書くクロスワードパズルは1人でできるという利点があります。今回は麻雀に軍配を上げるものの、クロスワードパズルも認知症予防にはかなり適しています。
他にオススメできるのは「散歩」です。下半身を動かす散歩は「寝たきり」予防のほか、近所のおばあちゃんと会えば嫁の悪口で盛り上がるなど、うれしさや楽しさを生み出す「会話の機会」にも恵まれます。こちらは「気分転換」にもなるでしょう。
体が思うように動かない場合は「作る・書く」がカギとなります。
脳梗塞のリハビリ患者さんに「孫に手紙を書きなさい」と勧めたこともありました。手紙とは「考えて、字を思い出し、きれいに書く」という努力をします。
加えて手紙を出すのに散歩がてら出かけるため、トータルリハビリとなります。手紙を出す相手がいなければ、新聞や雑誌、テレビ番組に投書するのもいいでしょう。
その他、競馬や競輪、折り紙、俳句、将棋・囲碁、トランプゲーム、読書、ダンス、水泳、農園での野菜作りなど、認知症予防に効果のある遊びや運動、趣味はいくらでもあります。
こうした生きがいにつながるような趣味を数多く持つほど、認知症にはなりにくいと思われます。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。