中村弁護士はさらにこう言って、前課長の胸の内を代弁する。
「金額が巨額だったり二重帳簿をつけるなど悪質な脱税については査察を受けることはあっても、脱税すれば全てが事件になるということはありません。実際、北海道や横浜などでも同様に競馬の払戻金に関する脱税例がありますが、いずれも刑事事件にはなっていません。他の事例との公平性から見ても、今回の起訴はきわめて正義に反すると思います」
税法上、JRAなど公営ギャンブルで得た払戻金は一時所得金として扱われるため、納税の義務が伴う。中小企業の税務を扱う税理士によれば、
「1回の的中でなくても、1年で90万円を超える払戻金があった場合、翌年の確定申告などで納税する義務が生じます。とはいえ、実際に競馬で高額配当を得ても、申告している人は有名人などを除き、少ないのが実態です。特に窓口などで払い戻しを行っている場合には特定することが難しく、わざわざ申告する人はまれでしょう」
WIN5購入にはJRAが指定する銀行口座を開設したうえで、インターネット投票することが必須だ。
「銀行に多額の入金があると、調査の過程で税務署が把握するということはある。今回も恐らく、銀行の入出金から発覚したのだと思われます。前課長はいずれ申告しなければいけないと認識していました。払戻金の一部は生活費などで使いましたが、豪遊などせず、ほとんど手をつけていなかった。すでに6200万円の納税に応じ、追徴課税金についても速やかに支払う用意があります。しかも払戻金の総額は4億円超と報道されていますが、実際には3億円程度でした。にもかかわらず、脱税したから懲役だというのはムチャクチャです」(前出・中村弁護士)
WIN5が的中したばかりに、前課長は失職しかねない苦境に追いやられているという。
「今年3月に強制調査を受け、4月11日付で人事室付に異動になっています。起訴内容を確認し、今後は起訴休暇についても検討します。まだ具体的な処分は決まっていません」(寝屋川市広報広聴課)
こうした処分に「不公平につきる」と憤るのは、同じく在宅起訴された卍氏だ。
「私は起訴されたことで失職しました。また、最初から外れ馬券が経費として認められていれば指摘後すぐに納税できる額でしたが、国税局が外れ馬券を経費として認めなかったばかりに最高裁まで争うことになり、裁判費用と苦しい分割納税を強いられました」
再び中村弁護士が、制度上の問題点を指摘する。
「そもそも何十億円という配当を出しているWIN5は、国が行っている事業なのですから具体的にどのように申告すべきかを周知徹底しなければいけない。本来は非課税にするなど、公平な制度を構築しなければいけないのです。今回のように、たまたま当てただけの人を捕まえ、それに税金をかけるだけでなく、前科者にまでするのは明らかに不当ですよ」
今年8月にはWIN5で4億円を超える超高額配当が出たばかり。的中したばかりに起訴されるのでは、競馬人気に水を差すばかりだ。競馬ファンは本気で眉をひそめている。