処方された薬を買い取り…
一見、妙案と言えるこの案。ところが関係者の間では、思いのほか評価が芳しくない。
西成でホームレスの支援活動を行う「野宿者ネットワーク」の生田武志氏はこう疑問を呈する。
「一部芸人の不正疑惑が騒がれて以降、あたかも不正受給が横行しているような印象が形成されていますが、実際の数字では、全受給のうち不正受給はわずか0・4%と、ほとんどないのが現実なんです。だから、まず前提としておかしいですね」
さらに、現在の現金給付にはそれなりの理屈も伴っているという。
「効率がいいんですよ。例えば生活保護世帯でも、全収入における食費の割合は各家庭によって違います。子供を抱える世帯では食費はかかるでしょうが、高齢者はあまりかからない。そういった各家庭の事情まで配慮したうえで給付がなされるかといえば疑問です。また、現金が減ると冠婚葬祭への参加ができなくなります。ただでさえ孤立化しやすい生活保護者が友人の冠婚葬祭にも参加できなくなれば、ますます孤立化が進みます」(生田氏)
さらに手厳しい専門家の意見もある。大阪・寝屋川市でケースワーカーとしての勤務経験もある関西国際大学の道中隆教授(社会福祉学)は、
「(現物支給は)意図はよくわかるが、現実的にはちょっと難しいでしょう」
と前置きして、次のように指摘した。
「それこそ大戦後の混乱期ならいざ知らず、今の金銭消費社会の時代にマッチしていません。それに、今のように受給者叩きみたいな社会の風潮が出来上がっている中、クーポンを店側に提示することには抵抗がありますよね。今の偏見をより助長することにもなりかねません。アメリカにもフードスタンプという、食品が買えるカードが支給される似た制度がありますが、日本との比較は難しい。生活保護は生活、住宅、教育など8つの扶助から成り立っていますが、外国では各扶助はそれぞれ異なった行政が受け持っているのに対し、日本の窓口は一つしかない。だから生活保護を受けられるか受けられないかは、オールオアナッシングで決まってしまう」
すでに問題化している貧困ビジネスの暗躍も、当然ながら懸念材料となる。これを指摘するのは、埼玉県立大学・長友祐三教授(社会福祉学)だ。
「医療費の本人負担がない今の生活保護制度では、処方された薬を買い取る業者が存在します。その現実を見るまでもなく、現物支給になれば、買い取り業者のようなヤカラが出てくるでしょう。不正受給を減らしたい意図はわかりますが、そこにさらなる不正が発生し、イタチごっことなります」