不正と適正の境目はどこにあるのか─。その原資が税金であることから、受給資格を巡って国民的論争に発展した生活保護費問題。誰もが納得して受給できる方法、不正がまかり通らない制度を追求した結果、いっそのこと現金支給をやめてしまえ、という新案が浮上しているのだ。はたしてそれは是か非か。提唱者ら論客が賛否を戦わせた。
悪質な場合は懲役か罰金刑
吉本芸人・次長課長の河本準一に続き、キングコングの梶原雄太にも飛び火したことで、ガゼン注目されるようになった生活保護問題。そりゃそうだろう。毎日のようにテレビに出て、さぞかし豊かな暮らしをしていると予想される「売れっ子芸人」の母親が生活保護受給者だとは、にわかには信じられないのが庶民感情というものだ。
結局、両ケースとも受給は「不正」と断定はされなかったものの、母親ネタで商売をしていた現実や、息子の高額なギャラで必ずしも生活保護受給適格者とは言えないような生活ぶりが明らかになった。生活保護を受けずに働く人々に不公平感を与え、生活保護制度のイビツな構造が露見したと言っていい。
「真面目に働くだけバカらしい─。この問題でいちばん重要なのは、現行の生活保護制度が、多くの人にそう思わせてしまうような制度であることなんです」
こう語るのは、河本問題を国民的議論の俎上に載せた、片山さつき参院議員である。片山氏が続ける。
「そもそも今の生活保護制度ができたのが昭和24年。戦争で焼け出された人や大陸から引き揚げて来た人が大量に生まれたからできた制度なんです。だから、基本的に自立を促すような中身になっていない。扶養の義務といっても、何ら強い拘束力を持つものではないんです」両芸人のケースでも、やはり一番の問題となったのが、扶養義務を巡る見解だ。自民党では、世耕弘成参院議員を座長とした生活保護プロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、現実から乖離した制度の見直しを進めていたという。そんな中で出くわしたのが吉本芸人の「疑惑」だったのだ。
「生活保護は、『本当に困窮している人が使うべき』制度であることは確認しておかなければなりません。『養える家族がいる場合には支給しない』のが原則です。ですから、河本さんは会見で『不正とは思わなかった』『不安定な職業なので』と、歯切れの悪い発言を繰り返していましたが、結局は生活保護法77条に基づく返還となりました。また、不正受給は紛れもなく違法行為で、悪質な場合には3年以下の懲役か30万円以下の罰金が科されます」(片山氏)
生活保護受給者は、200万人を超えていた第二次世界大戦後の混乱期から、経済成長とともに95年には88 万人にまで減少。ところがその後、景気の悪化にしたがって増加に転じ、昨年の東日本大震災後には200万人を突破した。今年3月には過去最高の210万人、総額3兆7000億円と、今や国の財政を圧迫する負担となっている。片山氏が河本問題を取り上げたのも、従来の制度の不備を指摘することで、そろそろ抜本的見直しの時期にさしかかっていることを示すためなのである。