「教育を買う時代」に不適
長友教授が続ける。
「そこで肝心なのは、制度を変更した際のメリットとデメリットを考えた場合、どうなるかです。一部には、パチンコなどのギャンブルに使ったり、すぐお酒に換えてしまう人もいますよ。ただ、それはほんの一握りで、ほとんどは真剣に働きたいと思いながらもしかたなく受給しているというのが現実です。そういった人たちの不便さなどのデメリットを考えたうえでやろうとしているのか。大いに疑問と言わざるをえません」
西成では橋下市長が掲げる特区構想の一環として、生活保護受給者の「医療機関等登録制度」を試行するとした。受給者は登録した医療機関や薬局の利用しか認めないというものだ。大阪市によれば、重複受診や重複調剤の抑制が狙いだという。その裏には前述のとおり、処方された薬の転売を組織的に行う貧困ビジネスの暗躍があったため、これを防止する狙いもあった。だが、決められた医療機関でしか診療を受けられないという過度の制限に批判が続出。結果、大阪市は「医学的必要性に応じて複数の選択も可能とする」と修正することとなった。これなど「入り口」部分の水際戦略が絵に描いた餅に終わった例だろう。そこで、
「現物支給などより、根本的な解決が必要」
と話すのは、前出・道中教授だ。
「自民党PTは『給付水準の10%引き下げ』という案も提示していますが、生活保護の給付水準は社会保障審議会で科学的根拠に基づいた数字として出しているものです。ここから最低生活費も決められる。それをさらに10%削減となれば、この『教育を買う時代』にもはや生活保護世帯では教育を買えなくなる。今こそ10 %削減などと言わずに、貧困世帯の子供が十分な教育を受けられるように、むしろ手厚く保護すべきなんです。そうして立派な大人に育てば、のちに立派な納税者になって、将来的に国庫も潤う。貧困の負の連鎖を断ち切るためにも、先行投資と考えるべきです」
このように、現場サイドからは反論噴出の現物支給案だが、生活保護を巡る行政の対応の遅れという現実に関してだけは、両者とも一致している。「入り口」の受給資格審査も「出口」の就労支援についても、ケースワーカーが質・量ともに備わっていないことは、生活保護問題を語る際にはつとに指摘されるところだ。
道中教授は、維新・自民PT案ともに「不正は許さん」という態度に一定の評価を与える一方で、「社会福祉事務所の機能不全」と、現状の行政には一切の容赦がない。「真面目に働くだけバカらしい」と感じさせる生活保護の問題も、事なかれ主義の行政が長年放置してきたことにあるのかもしれない。