思いつきの軽い発言はもとより、原発デモに飛び入りして党内をアキレさせる。もはや元総理としての威光は消え、地元・北海道の有権者からも見放されてしまった。そんな手負いの「鳩」にトドメを刺そうというのが、松山千春という「刺客」。「鳩」を大慌てさせたこの永田町劇場、やっぱりあの剛腕が仕組んだものだった。
顔を真っ赤にしてブチ切れた
千春が由紀夫に殴り込みをかけるらしい─。
7月上旬、梅雨空の続いていた永田町に、こんな怪情報が駆け巡った。
千春とは北海道足寄町出身の歌手として知られる松山千春(56)、由紀夫とは北海道9区選出の元総理・鳩山由紀夫氏(65)のことである。そして、新党大地・真民主の鈴木宗男代表(64)の盟友に当たるその松山が、次の衆院選で北海道9区から出馬し、鳩山氏を落選に追い込もうとしているというのである。
一部の週刊誌が怪情報の追跡に乗り出す中、7月21日には鈴木氏がテレビ番組に出演し、含みたっぷりにこう言い放ってみせた。
「元総理と戦うのは松山さんも望むところだろう。次の選挙には必ず出ていただけるものと思っている」
翌22日、当の松山も自身がパーソナリティを務めるラジオ番組で、
「我々が愛するこの日本、北海道の人たちが『こんな政治家には任せられない』と思った時には、ひょっとしたら(政界に)出て行くかもしれないな」
同じく含み十分に、こう畳みかけたのだ。
松山、鈴木氏によるこのWアナウンスは効果絶大だった。というのも、その後のスポーツ紙や夕刊紙などには、次のような見出しが波状的に躍ることになったからである。
〈鳩山元総理に刺客〉
〈鈴木代表が次期衆院選で松山千春を擁立〉
しかし、永田町の最深部から漏れ伝わってくる真相は、各紙の見出しとはいささか様相を異にしていた。事実、鈴木氏にきわめて近い永田町関係者は、次のように指摘、断言したのだ。
「一連の刺客騒動の陰には小沢一郎(70)がいる。鈴木と松山は駒にすぎず、黒幕はあくまでも小沢だ。この点を見落とすと、本質を見誤ることになる」
小沢氏といえば、子分らとともに民主党を離党し、7月11日に新党「国民の生活が第一」を結党して、みずから代表に就任。民主党批判では鳩山氏と共同戦線を張っていたその小沢氏が、黒幕として鳩山氏潰しに動き始めたというのだから、話は穏やかではない。この関係者が続ける。
「原因はズバリ、鳩山の優柔不断だ。小沢としては、民主党の息の根を完全に止めるべく、自分たちの離党と同時か、遅くともその直後には、鳩山もグループの一部を率いて離党するものと踏んでいた。ところが、鳩山は何やらオーナー気取りで古巣に未練タラタラ、一向にアクションを起こそうとしなかった」
しかもそんな中、鳩山氏は9月に行われる民主党代表選をニラみ、あろうことか鳩山グループから候補者を擁立することまで画策。この関係者によれば、怒り心頭に発した小沢氏は、
「鳩山は何をコソコソ、グズグズしとるんだ!」
ついには顔を真っ赤にしてこうブチ切れ、盟友の鈴木氏に働きかける形で、松山を刺客に送り込むという、鳩山氏への「恫喝作戦」に打って出たというのだ。