計算に計算を重ねた「動き」
9区と1区。どちらに転んでも、鳩山氏の目には強烈な恫喝と映るのだ。
では、鳩山氏が今なお離党の動きを見せない中、松山は本当に出馬に踏み切るのか。鈴木氏や松山の鼻息とは裏腹に、松山の事務所関係者の反応は、意外にも冷めたものだった。
「今年の年末へ向けて、いわゆる周年コンサートの開催が、すでに全国数十カ所で決まっており、仮に衆院選出馬となれば、多額の違約料をイベンターに支払わねばなりません。しかし、新党大地・真民主にそれだけの負担能力があるかは未定で‥‥」
次期衆院選の時期を巡っては、目下、今秋や今冬の年内説、来年7月の衆参同日選挙説と、見解は真っ二つに割れている。松山周辺の指摘に従えば、松山の来年7月の出馬はあっても、年内の出馬はほぼ不可能ということになる。しかも、解散カードを握っているのはあくまでも野田佳彦総理(55)。鈴木氏や松山を巻き込んでの小沢氏の恫喝作戦は何ら得るところなく、文字どおり鳩山氏1人をただうろたえさせただけの結果に終わってしまうのか。
この点について、小沢氏の側近議員の一人は、
「小沢氏は『数』と『カネ』だけを見据え、計算に計算を重ねて動いている」
としたうえで、小沢氏のホンネをこう明かす。
「まずは数。鳩山氏に早急に動いてもらいたかったのは確かだが、その後、次の総選挙の準備が始まるまでに離党してくれればいいと考え直した。その際に鳩山グループを自分の支配下に抱き込んだとしても、小沢グループが『数は力』で第3極勢力のヘゲモニーを握ることは可能だからだ」
つまり、一連の刺客報道は「次も離党を躊躇するなら、万難を排して潰しにいくぞ」という、小沢氏から鳩山氏への最後通牒だった。この側近議員が続ける。
「次にカネ。来る総選挙には莫大な資金が必要になるが、民主党からの分党が認められなかったため、小沢新党は政党助成金にすらありつけていない。そんな中、小沢氏は政治家・鳩山由紀夫の生殺与奪権を握ることで、鳩山氏から莫大な政治マネーを継続的に引き出そうと画策している」
「子ども手当」と揶揄された、母親からの膨大な生前贈与資金を持つ「大資産家」を利用しない手はないというわけだ。さらに、
「老練な策士に脅され、世間知らずのボンボンが数とカネを供出する。仮に松山が次期衆院選に出馬するとしても、現実的には新党大地・真民主の北海道比例区からの出馬になるだろう。松山人気で複数議席を確保できれば鈴木氏も好都合だからね」(鈴木氏周辺)
ところで、鳩山氏が数とカネを持参して小沢氏の軍門に下っても、先の悲惨な支持率を見るまでもなく、歴史的な政権交代を果たした元総理が次の選挙で落選するという、前代未聞の失態を犯す可能性は大。小沢氏はそれでいいのか。
「いや、受かろうと落ちようと、どうでもいい。野田政権をブチ壊してさえくれれば、『よくやってくれた』とねぎらって、名誉顧問にでも据えておけばいいんだよ。小沢・鈴木コンビは、鳩山から全てをしぼり取って使い捨てるだけだ」(前出・永田町関係者)
剛腕による「鳩料理」は下準備を終え、着々とフィニッシュに向かっている。