10年の懲役を終えた広瀬容疑者は、金子社長に対して執拗な嫌がらせを繰り返す。もともと、貸金業に対して共同経営者だという思い込みがあったからだというが、
「金子社長のバックの組織が変わった時に、広瀬は自分の組の兄貴分に『組として話をつけてくれないか』と持ちかけている。ところが、金子社長の新しいバックの組織のほうが大きな組織だったため、組としては対処できない、と断られてしまった」
それもあって、何とか金子社長から“分配金”をせしめようとする。広瀬容疑者が服役している間に、金子社長は貸金業をやめ、介護タクシー会社を新たに立ち上げていた。こちらも順調な業績で、懐をつけ狙うには十分だと広瀬容疑者は目をつけたのだ。
香川氏が続ける。
「広瀬としたら、2億円くらいは手にしたかったんだろう。実際、そんなことを金子社長に伝えたら、例の新しいケツ持ちから『2000万円で手を打てや』と言われたらしい。別の関係者に聞いたところ、広瀬はケツ持ちに対しても『あいつらはヤクザじゃなくて、ただの商売人だ』とキレていたらしいから」
そんな広瀬容疑者は出所後の一時期、覚醒剤絡みの一件から身をかわす必要もあり、関東近郊の土木業者に住み込みで働いていたという。そこで知り合った男から、産廃業者としてのノウハウを学んだようだ。
「俺だけじゃなく、いろんな人間に『産廃業を一緒にやろうや』と持ちかけていた。その知識は実に豊富で、例えば『千葉県は森田健作が知事のうちは認可が下りやすい』とか『競売に出ている物件を落としたほうが話は早い』とか、現実味のある話だった」
広瀬容疑者が香川氏に対して、いかにもたやすく大金が入るような口ぶりだったのは、実は金子社長だけではない“標的”がいたからだという。もともと吉原での貸金業で得た金をもとに、六本木ヒルズに居を構える実業家となっていた人物・A氏だ。
「広瀬の言うことだと、20億円くらい動かせるらしい。だったら自分に2億円くらい回してくれたっていいだろうというのが広瀬の言い分。俺たちに『近く2億円入る』の根拠がそれだった」
ただし、A氏に近づくことは広瀬容疑者も容易ではなかった。厳重なセキュリティで知られる六本木ヒルズだけに、侵入することも、待ち伏せることも容易ではない。そこで一計を案じた。香川氏が続ける。
「広瀬はタクシー運転手を巻き込もうとしたんだよ。Aさんはタクシーを使ってヒルズから移動するらしいから、自分の息のかかった運転手を行かせれば拉致できると。残念ながら、協力してくれる運転手は見つからなかったようだけど」
もし、運転手がいたら「もう1つの殺人」も、十分に可能性があった。