まるでVシネマのような事件である。都心で250台もの介護タクシーを束ねる社長が忽然とさらわれ、そして遺体が未確認のまま、3年後に殺人グループが検挙されたのだ。その首謀者から、事件の鍵を解く「ある計画」を持ちかけられた人物が、その一部始終を明かした。
「俺と一緒に事業をやらないか? もうすぐ2億円が入るんだよ」
神奈川で宅配業を営む香川浩之氏(49)=仮名=は、そんな夢のような話を持ちかけられた。12年夏頃のことである。
香川氏は、何やら胸騒ぎを覚えた。もしかしたらこの男は、あの「社長」を殺すつもりではないかと…。
男が「社長」に対して積年の恨みをを募らせていたことは、何度となく聞かされていたからだ。
そして今年11月23日、警視庁組織犯罪対策4課は、12人もの男女を逮捕する。東京・台東区で介護タクシー運営会社「ウィル」の社長をしていた金子竜也さん(当時48歳)を13年1月に連れ去り、車に監禁してスタンガンを押しつけるなど暴行し、その後、金子社長は死亡。そのまま死体を遺棄したとして逮捕監禁致死容疑での逮捕だった。
その首謀者が元暴力団組員・広瀬慶太容疑者(49)で、香川氏と知り合ったのは18年ほど前のことだったという。
「物腰の柔らかい男で、とてもヤクザには見えなかった、というのが第一印象。知り合いを介してだったんだけど、広瀬には『頼母子講』と呼ばれる無尽に誘われたり、思えば最初から金にまつわることが多かった」
人なつっこい広瀬容疑者は、香川氏にたびたび会いに来たという。そして香川氏は、広瀬容疑者と金子社長の縁も聞かされた。
「俺と知り合う前に、金子社長が吉原で貸金業を始めて、その“ケツ持ち”のような形で経営に絡んでいたのが広瀬だった」
金子社長と広瀬容疑者は、もともと「半グレ」のような時期があり、そこで親しくなったという。ただし、貸金業が順調に発展していくと、2人の間に亀裂が生じたと香川氏は証言する。
「分配金のトラブルだったと思うけど、金子社長は別の組織の人間にケツ持ちを鞍替えした。実は、金子社長にはもう1人、共同経営の男がいたんだけど、それもあわせて、広瀬からしたら『この野郎!』という感じになったんだ」
後述するが、この共同経営者にも、あわや金子社長と同じ“惨劇”が降りかかるところだった。
ところが、広瀬容疑者は、思わぬ形で金子社長や香川氏の前から姿を消すことになる。
「99年頃に、広瀬は覚醒剤の密売で逮捕されて、懲役10年を食らった。あいつがいた組は『シャブ屋』と呼ばれたくらいだから、取り引きの量もかなりのものだったと思うよ」
この長い服役の間に広瀬容疑者は「ある計画」を思いつき、そして出所後、周到に手だてを整えていった‥‥。