金子社長のもとで働いていた「ウィル」の関係者が言う。
「経営者が突然の失踪だったので、会社を解散することもできず、休眠の状態です。ただ、介護タクシーの運転手は、もともとが個人なので、新たに別会社を作って、そこで働いていただいている形です。犯人グループが逮捕されたとはいえ、まだ見つかっていない社長の遺体がどこにあるのか‥‥それが気がかりです」
さて、広瀬容疑者の話に戻ると、六本木ヒルズのA氏襲撃をあきらめたことで、再び金子社長から多額の金銭をふんだくろうとたくらんだ。
12年5月には、貸金業時代の売上金を巡り、金子社長は広瀬容疑者に脅されていると警視庁に相談。恐喝未遂容疑で逮捕されたものの、不起訴処分となる。その2カ月後の7月にも、金子社長は「身の危険を感じる」と再び警視庁に相談した。
それから半年が過ぎた13年1月26日午後8時30分頃、金子社長の会社を乗っ取ろうと、代表の名義変更を画策する。
金子社長の会社の前で待ち伏せた3人の男は、スタンガンで動けなくすると、白いワンボックスカーに押し込んですばやく連れ去った。
翌27日、夫と連絡が取れないと夫人が届け出たため、拉致事件と見て捜査が始まったのである。
この事件と前後して香川氏は、広瀬容疑者とも顔を合わせている。
「ニュースで金子社長がいなくなったことを知って、広瀬に『お前がやったんじゃないのか?』と聞いた。広瀬は、車に乗せたことは認めたが『すぐに放した』と言ったんだ。もっとも、俺の顔を見ずに、別のほうを向いて答えたけどな。当然ながら、俺はそもそも広瀬が持ちかけた計画には乗っかっていない」
香川氏は広瀬容疑者が、しきりに携帯の画面ばかりに目をやっているのを目撃した。大がかりなグループでの犯行ゆえに、今にして思えば緊密に連絡を取っていたに違いない‥‥。
今回の逮捕の報を受け、香川氏は「やっぱり‥‥」という思いにかられた。
「出所してからの広瀬は、振り込め詐欺のグループとか、いろんな人間に風呂敷を広げすぎた。どの連中にも『もうすぐ大金が入るから』とふれ回っていたから、ここで引っ込んだらメンツが立たないと思ったんだろうな」
あまりにも大胆で、あまりにも稚拙な「逮捕監禁致死」──広瀬容疑者らの供述と、金子社長の遺体の発見が待たれている。