朴容疑者はその実績から、社内の新人研修や漫画のイベントなどで登壇して弁舌をふるうことも多く、「かのスティーブ・ジョブズのように、壇上を右に左に歩き回りながら話す癖がありました。おもしろい話もするんですが、表情だけは終始変えない。業界内で『朴は変人だから』と話題になりやすかった」(講談社コミック関係者)
そうした評価もある朴容疑者について、社内では昨秋以降、「朴が殺ったのでは。いつ捕まるのかな」と噂され始めると、“焦燥言動”はさらに強まっていく。ある漫画関係のパーティに出席した朴容疑者の様子を、業界関係者が振り返る。
「(朴容疑者の)旧知の人物が、『(妻を亡くして)大変なことはないか』と聞いたのですが、言葉を濁すだけで、かたくなに語りませんでした。以前はお酒が進むと『嫁が厳しいから、女遊びなんてできない。前に漫画ファンの読者の子と食事に行ったのがバレて大目玉を食らったよ』と愚痴を漏らすこともあったんですが。この日の酒は、乾杯の時の一口だけ。気の抜けきった酒をずっと置き続けていましたね」
朴容疑者を知る出版関係者も、
「酒の誘いに対しては『子供の面倒を見なきゃいけないから』と固辞するようになった」
講談社では毎月、分野を問わず優れた活躍をした編集者に「編集企画賞」が贈呈され、朴容疑者は毎年、複数回受賞する常連だった。昨年6月に「モーニング」に異動すると、既存の連載作の引き継ぎを断り、独自の新連載立ち上げを目標に動いていた。日々、数多くの漫画家との打ち合わせに奔走する中で、最近になってある漫画家には、逮捕を予見したかのような胸中を吐露していたという。
「『この先、僕がいなくなっても大丈夫なように、3年、4年先を見据えた展開を今のうちに考えておきましょう』と。その漫画家は『気合いが入ってるな』ぐらいにしか思わなかったようですが。と同時に、配下の編集部員にも、先々の引き継ぎを示唆する言動を見せていたようです」(講談社関係者)
昨秋の編集部内コンペを勝ち抜いた朴容疑者は、今年3月から複数の新連載をスタートする予定になっていた。
「その1つに、ドラマ化もされた『サイコメトラーEIJI』の作画を担当した朝基まさし氏の漫画があります。テーマは『人の死体をどう遺棄するか』。(朴容疑者が)それを真剣に考えていたかと思うと、実に皮肉なことではありますが‥‥」(前出・講談社コミック関係者)
12月中旬から有給休暇を取っていた朴容疑者は、編集部の行動予定表のボードに〈10日夜出社〉と書いていた。前出・講談社コミック関係者が続けて明かす。
「逮捕が近いのでは、と噂になっていた頃で、別の編集部員が『10日夜出社』のあとに小さく、『できるかな』と揶揄した言葉を書き加えました」
はたしてその予感は的中し、まさにその日、出社はかなうことなく、警察へと連行されたのである。
記者が朴容疑者宅を訪ね、インターホンを押すと、応答はない。だが部屋の中からは、逮捕後は朴容疑者の母親が面倒を見ているという、残された子供たちの声が漏れていた。