インフルエンザが全国的に蔓延しています。国立感染症研究所によると、1月第4週における「全国で警報レベルを超えている保健所地域」は355カ所、45都道府県だそうです。
1月第4週の1週間当たりの患者数は全国で201万人おり、前週の161万人より増加しているとのこと。予防注射をした病院のスタッフさんでも感染しているそうで、今年はAH3亜型、B型、AH1pdm09などのウイルスが検出されています。
手洗いやうがい、マスク着用はもちろんのこと、加湿器で60%前後の湿度を保つ、ダニやホコリを除去するなどがインフルエンザの予防法です。特にお子さんが受験を控えていたり、乳幼児がいる家庭ではしっかりと予防したいものです。
また、今年はインフルエンザ以外のカゼも多く見られますが、ここで今週のお題です。カゼ薬を飲む際に、手近に水がない場合、そのまま飲んでいいのか、あるいは水を用意すべきか、どちらでしょう。
まず、カゼ薬に限らず、どんな薬でも水は絶対に必要です。薬は胃で溶けて吸収されますが、溶け始めはものすごく濃くなります。
溶けると砂糖水になる角砂糖をイメージしてください。角砂糖が湿るとドロッとしたハチミツのようになり濃度が濃くなりますが、薬もこれと同じ状態に溶けて胃の中に送り込まれます。
胃の壁はものすごく強く、何が入ってきても負けませんが、胃に送られる過程で通る食道の壁はものすごく薄く、その食道に溶けかけの濃い薬がくっつくと「食道炎」や「食道潰瘍」を起こしてしまいます。
水なしで薬を飲むこともできますが、万が一食道にくっついた場合、濃い濃度の薬が食道の粘膜を荒らしてしまうのです。しかも1回くっつくと水を飲んでもなかなか離れません。
たっぷりと唾が出て飲み込む力もしっかりしている若い人ならまだしも、ストレスで唾が減り、飲み込む力も衰えた高齢者だと、食道かい離の危険性は高まります。
薬を飲んだ際、ノドに薬が残っている感覚を覚えたことがあると思いますが、この感覚がある時はたいてい薬が残っています。
唾を飲むたびにだんだん落ちていきますが、この際も水で押し込むようにしてください。
また、薬の粒が大きいほど食道にひっつきやすくもなりますが、胃に負担がかかるため周囲をコーティングしている薬が食道に引っ掛かると、コーティングが取れてキツイ薬が一気に食道に当たります。つまり、大きさよりも薬の種類によるわけです。
こうした症状を起こさぬために、OD錠という、口の中で溶けて唾で薄めて飲む薬が開発されています。唾液で溶ける「水のいらない薬」です。
薬を飲む際、水でなくお茶でもいいか、と聞かれますが、飲める液体ならば何でもいいというのが正直なところです。あまり勧めませんが、ビールで飲んでも差し支えはありません。水がなくビールがある、という場合、そのまま飲み込むよりはビールで飲んだほうがいい、ということです。
ただし、鉄分を含んだ薬はお茶と相性が悪いものもあり、睡眠薬はアルコールと一緒に飲むと効果が出すぎたりします。睡眠薬でドローンとなる効果と酒でハイになる効果が生じると命の危険すらあります。
このように、成分によってはドリンクとの相性もありますが、普通の薬なら、お茶やコーヒーで飲んでも変わらないので、細かく気にしなくて大丈夫です。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。