冬に流行するインフルエンザ。18年末の段階では北海道で警報、新潟県・愛知県・兵庫県・香川県・鹿児島県で注意報が出されています。年齢別では60代から80代の感染が多くみられています。
高齢者は特に、免疫力が低下しています。中でも、呼吸器の慢性疾患、心臓病、腎臓病、糖尿病の方は肺炎を起こしやすいので注意が必要です。また、高熱により判断力を鈍らせることもあります。一時的なものではありますが、認知症の症状を急速に悪化させる可能性があります。風邪だと勝手に判断して放置せずに、病院を受診するべきでしょう。
予防策としては、感染した人のセキやくしゃみなどで飛び出たウイルスを、鼻から吸入すると感染するため、マスクの着用を心がけてください。また、インフルエンザウイルスは湿度に弱いため、加湿器で部屋の湿度を50~60%ほどに保つのも効果的です。
一方、冬に猛威を振るうノロウイルスは、昨年末の段階で福岡県・宮崎県・熊本県など九州地方での報告数が多く出ています。こちらは食中毒で感染すると思いがちですが、患者の嘔吐物や下痢便を片づける際などに飛沫感染する可能性があります。処理をする場合、マスク・手袋・ゴーグルなどで体を防護し、塩素系の洗剤などを用いて、トイレの便座やドアノブ、階段の手すりなど感染者が触れたと思われる場所を広い範囲で消毒、ふき取る必要があります。感染者が使ったタオルは絶対に使用してはいけません。
いずれも怖い感染症ですが、ここで質問です。高齢者にとってより危険なのは、インフルエンザとノロウイルスのどちらでしょうか。
ノロウイルスは嘔吐と下痢による脱水症状を起こしますが、点滴さえできれば死に至ることはありません。対してインフルエンザは肺炎を起こして死に至るケースがあり、やはりインフルエンザのほうが危険性は高く、高齢者は特に注意する必要があります。
ここ数年、インフルエンザに感染して死亡する高齢者が増えていますが、その要因の一つとして「集団生活」があります。一人暮らしや家族と住んでいる場合、感染する確率は少ないです。しかし、現代では老人ホームや介護施設で集団生活をしている方も多く、感染する確率が高まっています。
インフルエンザの予防接種は、病人と接する機会の多い医療関係者や介護施設に勤める人、デパートなど人の集まる場所に勤務する人などは、なるべく早めに打つべきです。
ワクチンは一度打てば何度も打つ必要はありません。麻疹や風疹、日本脳炎を考えればわかりますが、小さい頃にかかったり、ワクチンを打った場合は、体内に免疫ができるため一生打たなくとも大丈夫です。
インフルエンザも同様です。ただし、これらのインフルエンザの予防接種をしていても、別の型のウイルスの抗体とはなりませんし、インフルエンザは変化しやすいウイルスです。新型ウイルスが流行する可能性があるので、必ず早めに予防接種をしたほうがいいでしょう。
ちなみに、ワクチンは1回接種が原則ですが、13歳未満は体ができあがっていないため、半分ずつの2回接種が原則となっています。お子さんのいるご家族は、スケジュールに余裕をもって予防接種をしてください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。