年々、水に対する関心が高まっています。かつては水道水=飲料水ですが、ミネラルウオーター市場が拡大。15年度には2860億円の市場規模になると見られています。
夏になると、ミネラルウオーターを飲む機会が多くなりますが、健康に留意した場合、飲むべき水は「硬水」と「軟水」のどちらがベターでしょうか?
まず硬水と軟水の違いについて説明しましょう。両者の違いは水1リットルに含まれるカルシウムイオンとマグネシウムイオンの量で、100ミリグラム未満だと軟水、100ミリグラム以上だと硬水とされます。カルシウムを含んだ石灰質の地層を通った水ほど硬くなります。軟水は口当たりが柔らかくさっぱりしており、硬水は喉越しが硬いという特徴があります。
一般的に日本の水は、沖縄の一部などを除くとほとんどが軟水です。水分は人体の60%を占めるだけに、私たち日本人は“軟水民族”であり“軟水体質”であると言うことができます。
軟水に慣れ親しんでいる日本人は海外旅行で現地の水を飲むと下痢をすることが多いのも、軟水とは異なる硬度の水を飲んだことで腸がビックリした結果の現象です。もちろん、1カ月もたてば体が硬水に慣れて下痢をしなくなりますが、硬水はカルシウムが多く腎臓結石が起きやすくなるなど、日本人が常飲するには不向きな水と言えます。
ちなみに「痩せる水」と言われているある外国のミネラルウオーターは硬度が1468ミリグラムもある超硬水で、そのダイエット効果は「下痢によるもの」です。私も飲んでみましたが、下痢はしないまでも便が緩くなりました。
とはいえ、少しぐらい硬度のある水であれば問題ありません。市販されているエビアン(フランス)は約300ミリグラムの硬水ですが、下痢をする人など聞いたことがありません。
また、日本料理は軟水により発達した食文化です。煮炊きの際にうまみの成分を引き出しやすいのも軟水です。ヨーロッパの日本料理店では、かつおぶしやマグロとともに水も日本のものを使っていますが、これは硬水ではかつおダシのうまみが出ないためです。硬水は日本料理に適さないのです。同じく緑茶も軟水でこそ風味が出ますが、ヨーロッパで発展した紅茶は、通に言わせると硬水のほうがおいしいそうです。
つまり、その国や地域の水が、その地の食材とともに食文化を醸成してきたわけです。海外の場合、フランスやイタリア、ドイツは“硬水国”。石鹸が泡立たず使いにくいとされています。イギリスはロンドンこそ硬水ですがエジンバラのように軟水エリアもあり、スコッチの水割りは軟水のハイランドウオーターで割るとおいしく飲めます。
アメリカはニューヨークやロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、ワシントンなど大都市のほとんどが軟水ですが、内陸部のラスベガスやグランドキャニオンは硬水です。中国や韓国、インドは日本より硬度が高いですが、オーストラリアは日本より硬度の低い軟水がメインです。このように、海外旅行の際は現地の水の硬さも頭に入れておくと、急な下痢などに巻き込まれずに済むでしょう。
最近は水を買う人も多いですが、日本の水道水は世界のミネラルウオーターよりクオリティが高く、安心して飲めます。水道水がペットボトルで売られているのも日本ぐらいでしょう。
夏に向けて水分の摂取にはくれぐれも気をつけてください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。