「妻から加齢臭がすると言われましたが、ニオイをなくす方法はないですか?」
中年の男性からこのような質問をされました。
加齢臭は、鼻の脇や耳の後ろ、後頭部などから出る皮脂腺の中のエクリン腺から出る脂がニオイの源です。脂が出ただけでは臭くはないですが、その脂が空気中で酸化すると独特のニオイを発します。これが、世間で言う加齢臭の正体です。お父さんの枕が臭いのは、皮脂腺を出す鼻や耳、後頭部などから出る脂が、枕にしみこむからです。
新入社員と触れ合う季節となり、気になるのもわかりますが、ワキガや体臭と異なり、加齢臭は年を取ると誰でも発するニオイです。どんなに清潔にしていても必ず分泌されるもので、完全に消せるものではありません。男性に多いのは、汗や皮脂などの老廃物の分泌が女性より多いからです。
いわば誰にでもある体臭で、イケメンの福山雅治さんでさえもしかりです。
スカンクのニオイは「衝撃的」と言われるほど臭いですが、同じようなニオイのするジャコウジカやジャコウネコは臭くはなく、ムスク系の香水の源流となりました。このとおり、セクシーな香りと臭いのとは紙一重なのです。
体臭は年齢によって度合いが異なります。例えば赤ちゃんの体臭はほとんどの人が好むもので、ニオイというより「香り」としたほうがよさそうなほどです。思春期の女性のミルク臭もそうですが、これらは神が「人間同士の関係向上のために作った」と思えてならない香りです。
私は加齢臭という言葉は好きではありません。ダンディなおじさまが同じニオイを発していても、「加齢臭がする」とは言われないでしょう。福山雅治さんなら「セクシーな香り」と称されるものが、不潔なおじさんだからこそ加齢臭、と言われるのです。つまり顔や雰囲気で決まる偏見でもありますので、年齢臭、あるいはおじさま臭と言うべきだと思っています。
では、ここで問題です。加齢臭を少なくしたい場合、肉と米のどちらを減らすべきでしょうか。
もうおわかりだと思いますが、加齢臭は脂が原因ですので「肉を減らすべき」となりますが、しかしそれでも加齢臭がなくなることはありません。
加齢臭が気になり必死にお風呂に入る人もいますが、先週の「フケ」のお題で記したとおり、洗いすぎは皮脂の落としすぎにもつながります。仕事や営業において加齢臭が気になる場合、人に会う前に鼻の脇や耳の後ろ、後頭部などを、ニオイの少ないウエットティッシュやおしぼりで拭くといいでしょう。拭いたあと、ティッシュやおしぼりを黒くさせる物質こそ、エクリン腺から出る脂です。
香水でごまかすのも一案ですが、臭いところに別の香りをつけるため、ニオイがよけいキツくなることさえあります。そもそも香水は体臭の多い外国人だからこそ、混ざり合った香りがします。日本人のように体臭の少ない民族に向けて作られてはいません。
加齢臭の要因を酒やタバコと考える人もいますが、酒はアルコール、タバコはヤニのニオイが加齢臭と混ざるだけのことで、どちらもやめたからといって効果はありません。
ここ数年、加齢臭についての研究が化粧品メーカーでされています。かつてノネエールとされていた物質も現在は細かく分析されており、やがて加齢臭を絶対的に和らげる化粧品が発売されるかもしれません。それでも加齢臭は完全にはなくならない「自然臭」。あまり気にせず、上手につきあっていくことです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。