働き盛りの患者さんが「立ちくらみをした」と慌てて来院しました。どうやら緊張の中、長時間立ちっぱなしだっそうで「今までにこんなことはなかった」と心配顔です。「めまいもする」と顔色を悪くしていましたが、ここで問題です。「立ちくらみ」と「めまい」は、どちらが危険な症状でしょうか。
立ちくらみとは、一瞬だけ脳に血が行かなくなる一過性の低血圧です。小学生が朝礼で倒れたり、お酒を飲んでの入浴後や生理中の女性が立ち上がった瞬間にフラッとなる、こうした症状が該当します。立った瞬間にクラッとするので「立ちくらみ」と呼ばれます。
立ちくらみで崩れ落ちた時、頭が低くなりますが、この時に脳の血流が回復するのですぐに良化します。重病には結び付かない症状なので、ゆっくりと立てばすぐに治ります。
立ちくらみを起こした時に「立っていた」「極度に緊張していた」「吐き気を催していた」「暑さや痛みを感じていた」との自覚があれば、心配することはありません。
一方のめまいには「良性」「悪性」「仮性」の3種類があります。ちなみに立ちくらみとは「仮性めまい」に該当します。
めまいは座りながら首を動かしただけでも症状が出ます。人間が立っていられるのは平衡感覚を保持する機能が内耳に備わっているからですが、この機能がおかしくなると、めまいを起こします。
良性のめまいで思い出されるのが、2012年になでしこジャパンの澤穂希選手がアルガルベカップの最中に発症した「良性発作性頭位めまい症」です。
これは、耳の中にある三半規管の機能が悪くなり、少ししか頭を回してないのにたくさん回したような信号が脳に届いてしまう症状です。
良性だけに、普通は1週間から1カ月、長くても3カ月ほどで治りますが、半年以上続くと「メニエール病」と診断されます。めまいが一過性なら怖くないですが、頻繁に起こる場合、何かしらの病気を抱えている可能性もありますので、医師の診断を受けてください。
怖いのは悪性めまいで、脳梗塞の前ぶれとして起こりうるだけに、命に関わるケースが存在します。いちばん怖いのは「聴神経腫瘍」と言って、三半規管近辺の神経にできる脳腫瘍の一種です。聴力の低下が初期症状で、顔面のしびれや筋肉の麻痺なども起こります。腫瘍ですので手術が必要ですが、こうした症状を伴う分だけ、立ちくらみよりもめまいのほうが危険だと言えます。
悪性めまいというだけあって、めまいで怖いのは「他の症状がある」ケースです。頭痛、吐き気、耳鳴り、しびれなどを伴うと、脳に異常があるケースが多く、この場合は医師に診てもらわねばなりません。とりわけ怖いのが、先にお伝えした脳腫瘍です。
また、めまいの症状には「動揺性」と「回転性」の2種類があります。「動揺性めまい」は船上で揺れている感覚のめまいです。長時間船に乗った時など、船を下りてもフラフラする「丘酔い」を感じますが、この種のめまいはさほど怖くありません。
回転性とは、遊園地のティーカップを降りたあとにフラフラするようなめまいで、プロレス技のジャイアントスイングも回転性めまいの一種ですが、このめまいを感じると、他の病気を伴うこともあるため、要注意です。
もっとも、めまいはいまだに原因不明であり、多くは命に関わらない「良性めまい」です。しかし前述のように頭痛、吐き気、耳鳴り、しびれを伴ったら危険信号です。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。