カズは再三「(サッカーとフットサルは)競技が違う」と繰り返す。両者の違いはルールからして大きく異なる。
フットサルは、1チームがゴールキーパー(GK)1人、フィールドプレーヤー(FP)4人の計5人。試合時間は20分ハーフ(インプレー時間を正確に測り、ロスタイムなし)。コートは約4分の1で、ゴールは3分の1ほど。ボールは一回り小さく、重さはほぼ一緒だが弾みにくい。
また、交代や退場はアイスホッケーに似て、選手が自由に何度も交代可能で、警告による退場者も2分間のペナルティタイム経過後か、失点時点で交代要員を補充できる。
当然ながら選手に求められる能力や戦術も大きく異なるのだ。サッカー評論家の金田喜稔氏が解説する。
「まったく別の競技です。狭いコートで、攻守の切り替えが早いので、バスケットボールに似ていて、瞬発力を問われる。W杯レベルなら1人がサボればもちろんのこと、半歩の差がすぐに失点につながりますよ。また、戦術的にも攻守それぞれにさまざまなバリエーションが組まれます」
通常はマンツーマンだけに、攻撃時には頻繁にポジションチェンジも繰り返し、時にはGKも参加し、数的有利を作ることもある。そのスタミナの消耗度は著しく、3~5分程度で選手の交代が行われる。
初日の夜のミーティング後、ロドリゴ監督が母国・スペインの強豪クラブの試合を中心に編集したDVDを、初招集組のカズと8月に帰化したばかりのエース・森岡薫(33)に渡した。スポーツ紙デスクが話す。
「CKからのサインプレーが10通り以上、ディフェンスのパターンなどが20通り以上もある30分ほどの作品。カズは『勉強、苦手なんだよ。でも、覚えなきゃね』と苦笑いでした」
合宿2日目は、早くも実戦練習が行われた。前日のミニゲームと同じで、カズは四苦八苦するばかりだ。前出の記者が話す。
「5人1組、3つのチームを作り、攻守を繰り返しながら6セット。守備からスタートしたカズは、攻撃側の5回のチャレンジ中(得点か、ボールを失う時点で1回終了)、1度もボールに触れられない。それどころか、2セット目の攻撃時でさえ、1人孤立しパスがまったく回ってこない。監督から『下がってポジションチェンジ』と指示され、他の2チームのセット中には、仲間からホワイトボードを使って解説を受ける一幕もありました」
代表の基本システムは、ひし形の1─2─1。カズはピヴォと呼ばれるゴールにいちばん近いポジションに入るも、代表クラスの緻密で激しい動きに戸惑うばかり。1カ月後に迫った本番に向け、不安が募った。