カズは決して雄弁ではない。しかし、3年ものラブコールに応えるかのように、その意気込みは合宿中の一挙手一投足からも感じることができる。スポーツ紙サッカー担当記者が話す。
「10月1日からの第2次合宿初日に欠席したカズですが、本人の希望で、2日目の午前だけの参加予定が午後の練習にも残りました。フットサル独特の足の裏でのトラップに慣れ始め、3チームに分かれての実戦形式の練習では積極的な動きが光った。『(監督から)失敗しながら学んでほしいと言われているんで、まずいプレーにしても体感できた』と、手応えをつかんだ様子でした。特にシュートに関しては、『無理な体勢からでも打てば、コーナーキックやセットプレーになる』と、Jリーガーのカズらしく超攻撃的でした」
フットサル日本代表の現時点での課題は、A代表と同様「決定力」だ。この日はロドリゴ監督が珍しく、「シュートで終われ!」と、大声を張り上げる一幕もあった。前出・記者が続ける。
「カズがコートの外から他の2チームの動きを見入っている時でした。監督はカズをフィニッシュの選手として高く評価しているだけに、フットサルでも強引なくらいのシュートの必要性をカズに伝えているようでした」
もちろん、エースストライカーは45歳のカズではなく、3度目の帰化申請の末に滑り込みで代表入りを果たした森岡薫(33)だ。ペルー出身のテクニシャンは、昨季のFリーグのMVPで得点王。W杯で徹底マークを受けるシーンは想像にかたくない。そんな中、厳しい予選のキーマンこそ、カズであり、その左足だという。フットサルに詳しいサッカーライターの菊地芳樹氏が話す。
「このチームに左利きの選手はいません。右足でも左足でも打ち抜けるカズのシュート力は魅力であり、切り札になると思います。バレーボールのように、ここぞという場面でのワンポイント的な起用が予想されます」
その言葉どおり、この日はコーナーキックやフリーキックからのトリックプレーで、強烈なシュートを放っていた。別のサッカー担当記者が話す。
「右45度からのフリーキックでは、3枚の壁の裏側の右ポスト付近からダッシュで逆サイドに走り込み、反転しながらダイレクトで右足を振り抜いていました。これで左サイドからでもカズに任せられます。バリエーションが多彩すぎて、まだまだサイン違いもあるし、ボールが小さくパススピードも速いため、タイミングも遅れがちでしたが、完成度が増せば日本の武器になります」
W杯は、24チームが6ブロックに分かれ、16チーム(3位の中から4チーム進出)が決勝トーナメントに進める。世界ランキング10位の日本のブロックには、同2位のブラジルと5位のポルトガルがいるため、格下のリビアに勝ったとしても3位通過は厳しい。
前出の菊地氏が解説する。
「ブラジルもポルトガルも中盤のゾーンからでもシュートをガンガンと放ってきます。破壊力満点の攻撃に対抗する日本は、ゾーン・ディフェンスで体を投げ出しながら防ぐよりも、前から守り、シュートチャンスをつかんでいくオールコート・スタイルを練習してきました。それがどこまで通用するか、予選突破の鍵になります」