「明らかに『妄想性パーソナリティ障害』です」
iPS細胞を使い心臓手術を行ったと名乗り出て、一躍注目を集めた森口尚史氏(48)。だが、ウソは一夜にしてバレ、ニセ研究者としてマスコミに追い回される境遇に。それでも時に笑みすら浮かべウソを重ねた森口氏を犯罪心理学者の町沢静夫氏が一刀両断する。
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「すぐバレるようなウソを平気でつく。もとにあるのは人格の問題です。内面には『自分は偉いんだ』という思いが非常に根強くある。見栄を張りたい気持ちは誰にでもあるが、彼はそれが誇大的でさえある。精神分析の立場から言うと『妄想性パーソナリティ障害』といいます」
町沢氏は、そう森口氏の頭の中を分析してくれた。
「妄想性━━」は精神病ではなく「人格障害」に属し、本人が医師に申し出ればケアできるが、強制的に医療を受けさせることはできないという。
それにしても周囲の人間を欺き続けていた森口氏。千葉県市川市の自宅アパート(1K、家賃6万2000円)の大家が言う。
「ここへは東大助教授という肩書で入居しました。2年前、医学部の教授に昇進したというので『よかったですね』と言ってたんです。地味な方で研究一筋だとか。最近『これまで積み重ねてきた研究が学会で認められアメリカで表彰式があるので渡米する』とうれしそうに言っていました」
近所のクリーニング店でも「記者会見するから」とワイシャツとネクタイのクリーニングを頼んでいた。
しかし、そんな事実は一つもなく、アパートの住民にもハーバード大客員教授の肩書を披歴したが、一時期同大学の客員研究員を短期間務めていたというのが真相だった。6浪して東京医科歯科大に入学。看護師の資格はあるが医者ではない。にもかかわらず当初、読売新聞の取材に「iPS細胞の移植を決断した理由」に関し、「医者として前に進まなければならないこともある」(傍点編集部注)などと語っていた。
森口氏は自分で吹聴した6つの手術のうち、5つは虚偽だったことを認めているが、ニューヨーク在住のテレビスタッフが言う。
「ミッドタウンのホテルで開かれた森口氏の会見に集まった記者の一人が『あんたがウソつくから休みの日に出てこなくちゃいけなくなった。残りの一つもウソなんでしょ? 正直に言うなら今のうちですよ』と問い詰めた。ところが森口氏は何か他人事のような態度。各社とも怪しい森口氏の態度から、いつ逃げるかわからないと踏んで彼が現れると常に同行。エレベーター内も記者が取り囲み寿司詰め状態でしたが、そのせいか扉が閉まったまま20分も止まってしまった。その間、彼の独演会みたいになり、皆ヘトヘトでした」
次々バレるウソ。それでも森口氏は「1人の手術はやった」と言い張る。が、患者の素性も、どこの病院かも明かせないという。
町沢氏が言う。
「森口さんにとっては最後の砦なんでしょう。その砦をウソをついて守っているって感じですね」