震災後の被災地では、ドサクサに紛れた火事場泥棒が跋扈した。そんな現状をつぶさに知ることができるのが、法廷の現場だ。震災関連の裁判を傍聴し続ける司法ジャーナリストに“被災地のリアル”を聞いた。
震災の余震も続いていた時期に、埼玉県川越市のパチンコ店で、顔なじみの常連客4人がいつものように時間を持て余しつつ、玉を追っていた。そのうちの1人が言う。
A「勝ってる? 負けてる? でも大丈夫だから、被災地行けば儲かるから」
B「まじで?」
A「被災地で20万円ゲットできるから」
4人はすぐに福島第一原発の警戒地区へと向かった。住民が避難したあとの無人の民家から、指輪など100万円以上の品物を盗んで質入れしたことで、身元がわかり、窃盗の容疑で逮捕された。
法廷で明らかになった容疑者の一人は、犯行動機についてこう証言した。
「恋人の手前、働かなきゃいけないと思ってちょうど仕事を見つけたところだった。でも、給料日は1カ月後。とりあえず金が欲しかった」
あまりにも短絡的な理由で、被災地へ“出稼ぎ”をしに行ったというのだ。
また、共犯の容疑者3人のうち、1人は実家暮らしのニート。自宅生活のフリーターもいた。彼らの表情からは、生活に困窮する様子はまったくうかがえない。
「裁判は福島地裁で行われましたが、犯人の母親は毎回、川越から裁判所まで来ていました。被害者にしてみれば、たまらないですよね」
そう語るのは、大震災後に起きた、被災地を舞台にした犯罪の裁判傍聴を続けている司法ジャーナリストの長嶺超輝氏である。
これまで長嶺氏は、昨年4月から福島には10回以上、仙台へは20回以上足を運び、いわゆる“震災犯罪”に関する数々の裁判を傍聴してきた。
その結果、震災犯罪には、加害者と被害者が、被災者か否かによって大別して3つのタイプに分類することができるという。長嶺氏が続ける。
「1つは、冒頭の事件のような、被災地の外部から犯罪をしに来るパターン。もう1つは、被災者が被災者を狙うパターン。あとは、被災者以外が被災者以外を狙うものです」
長嶺氏の、これまでの膨大な傍聴記録にある「被災地外から被災者」の項目を見ると、その大半は“金目当ての犯行”だというのがわかる。例えば、こんなケースがある。
〈広島県から車で出発し、カーナビに福島第一原発の警戒区域内にある工場の住所を入力。「高そうな資材がある」ことから盗みに入ったという。容疑者は男2人組だった〉
〈横浜や静岡で暗躍していた少年窃盗団が、「被災地は空き巣が頻発しているとニュースで見て」被災地に乗り込み盗みを働いた事件。裁判では少年の1人が、「自然とそういう話になった。何も考えずにやった」と言い、「人間として甘い」と裁判官にたしなめられる場面もあった〉
あまりにも軽はずみな火事場泥棒の供述に、長嶺氏もついつい、怒りを禁じえなかったという。