震災地の中でも甚大な被害を受けた宮城県石巻市。今なお仮設住宅暮らしを余儀なくされている人がいる一方、ガレキ処理で不正に儲けたヤカラに捜査のメスが入った。
震災から1年半が経過した今、自治体によってガレキの処理費用に大きな開きがあることが問題視されている。NHKの調査によると、石巻市の費用は1トン当たり7万1000円。これは被災地の中でも最高額で、最低額である宮城県東松島市の実に約7倍に当たる。なぜ、ここまで金額に差が出るのか。
地元紙記者が解説する。
「費用がかさんだ理由の一つはガレキの集め方です。十分な分別をせずに集められたガレキを金属や木材に分類するための機械や人手が必要となったんです」
機械や人手だけでなく、時間もよけいにかかった。そのため処理待ちのガレキからハエが発生し、その駆除のための薬品代もかさんだという。ところが、これだけではなかった。
「石巻市の費用が突出したのには、処理方法以外にも理由があるんです」(前出・地元紙記者)
先月13日、一通の告発状が宮城県石巻警察署に受理された。提出者は石巻市議会。被疑者は同市で「藤久建設」を経営する伊藤秀樹社長(49)だった。告発理由は「正当な理由なく資料の提出を拒んだ」という地方自治法違反の容疑だ。これこそが、石巻市のガレキ処理費の高額化とも無関係ではないというのだ。
「藤久建設が市から請け負ったガレキ処理の費用請求に不審な点があるとして、議会が今年の5月に調査特別委員会(百条委員会)を設置し調査を続けていました」(全国紙仙台支局記者)
つまりこういうことだ。議会側は伊藤社長に対し、会社の帳簿や税務申告書を提出するよう求めた。しかし、伊藤社長が「営業上の秘密が保てなくなるおそれがあり、委員会の調査権限の範囲を超えている」と拒否したことから、議会による告発という事態に至った。
伊藤社長は、震災後に石巻市で組織された「石巻災害復興支援協議会」(協議会)の会長を今年春まで務めていた。この協議会は、全国から同市に集まってきたボランティアを統括。受け皿不足からボランティア受け入れを断った自治体もあった中で、行政とボランティアとの協力関係をうまく築き、メディアから「石巻モデル」などと称賛されたものだった。
一方で、地元建設業者の間では「藤久建設がボランティアを使ったガレキ撤去作業で儲けている」という疑いの声がささやかれ、今年3月には市が調査を開始。すると、同社による巧妙かつ悪質な手口が明るみに出てきたのである。
「協議会には日本財団から非営利目的でトラックやダンプカーが貸し与えられていたのですが、藤久建設はそれらの車両を自社の事業に流用し、ガレキ撤去にボランティアも総動員した。その経費として市に請求した額は1億1000万円。さらに倒壊家屋や事業所の解体撤去業務でも約2億円を稼ぎ出していたのです」(地元ジャーナリスト)
震災後、市内の建設業者や解体業者はガレキ処理を受注しようにも、車や機材、人手が足りずに手をこまねく状況だった。そんな中、藤久建設は協議会への支援物資をうまく利用。ボランティアのガレキ作業を自社の作業にすり替えて荒稼ぎしたというのだ。
「業者が処理業務の費用を市に請求する際には作業中の写真を添付しなければならないのですが、これらの写真に、協議会に貸し出されていたオフロードトラックが写っていたことから疑惑が浮上しました」(前出・地元ジャーナリスト)
藤久建設には車両借り上げ費として市から約500万円が支払われたが(のちに返還)、協議会の車両を流用していたのだから借り上げ費が派生するはずはない。
さらに、同社が請求書に添付した写真には、所属団体名を示す胸当てなどをつけたボランティアまで写っており、伊藤社長が協議会におけるボランティア活動の記録写真を自社のガレキ処理の施工写真として使用した疑いが濃厚なのだ。しかも請求に当たっては、同じ写真を場所と時間を偽って何度も繰り返し添付。実際の作業期間より長期にわたったように見せかけ、請求額を膨らませたのではないかとも見られている。
前出の仙台支局記者は次のように指摘する。
「藤久建設の行為は追及されてしかるべきですが、市側が単純に被害者かというとそれも疑問です。確かに庁舎が水浸しになるなどの異常事態で、書類や写真のチェックまで手が回らなかったという事情はわかりますが、役所内に地方都市ならではの、しがらみがあった点も見逃せません」
“しがらみ”とは何か。実は、疑惑が明るみに出て以降、伊藤社長は「市の職員の指示に従ってやっただけ」という趣旨の発言をしているというのだ。
「伊藤社長の身内にはベテランの県会議員がいます。この県議は前回の市長選で亀山滋市長を支援したことで、市政にも強い影響力を持っている。それだけに、彼を通じて市職員が伊藤社長に何らかのサジェスチョンを与えたのではという憶測を呼んでいます」(前出・地元ジャーナリスト)
前出の東松島市は「復興費は全国の皆さんが負担しているのだから1円でも安くするのが使命」と言って、最少コストでの処理に成功した。この姿勢は全ての自治体に貫いてほしい。