家族全員に死刑判決が下った前代未聞の事件がついに映画化。狂気まみれの「全員死刑」(11月18日公開、日活/東京テアトル)だ。間宮祥太朗演じる主人公の恋人役で存在感を放つ清水葉月(27)が、「イカれた現場」で見たものとは?
かつて福岡県で貸金業の女性と息子2人、その友人1人が絞殺、銃殺された。犯人は地元ヤクザの男、妻、息子2人の4人。借金苦による強盗目的の犯行だった。
身勝手極まりない残忍な犯行に、一家全員に死刑判決が下る。次男の獄中手記「我が一家全員死刑」(鈴木智彦著、コアマガジン/小学館文庫刊)を原作にした同映画のヒロインを、清水はオーディションで勝ち取った。
原作では「最愛の恋人」として次男の精神的支柱となる女性で、映画内では唯一の“良心”として存在。
「最初の彼女の設定は、刺青が入ったイカれたガールで、体の露出や濡れ場も多かったそうです。でも私に決まってから、違った描かれ方になっていました」
現場は熱量が高く、監督や間宮とは「バトル状態」だったと振り返る。原作でも、1人目を殺してシャブをキメたあとの次男が、いぶかしむ彼女を疎ましく思い、殴りつける描写がある。
「私も殴られます、ガーンッ!と。でも殴り返して、ボッコボコ、ゴロンゴロンと、殴りかみつき大ゲンカ。でもしだいに、激しいキスに変わっていくんです。私たちはこの場面を“ファイティングイチャイチャ”と呼んでいます」
そこでカットがかかるはずだが、監督は何も言わない。清水と間宮は役に憑依し、アドリブで激情を交わし続けた。やっとカットを指示した監督は「いやあ見ちゃいましたよ」と笑ったという。
「他にもベッドシーンはあるんですが、体の露出はあまりないので、『こんなに剥き出しでぶつかってくる人を相手に、服を着たままでいいのかな』と思っていました。でも、いざ始まると、脱がなくとも官能的な雰囲気になって。恥ずかしい者同士がぶつかっていることには変わらないな、と。そう、私、撮影中は心の中がずっと“すっぽんぽん”だったんです」
イカれた映画の現場で、躊躇してはいられない。撮影前は、「なんてひどいセリフなんだ」と眉をひそめるように思えたセリフも、いざその時が来ると、感情を乗せ、口をついて出てきた。
「彼は裏でコソコソしている。その間、私はなぜか彼の友人男性が入院する病室で待たされる。彼にいちずな愛がある私は、素直に待つ。そんな切なさ、悔しさ、やりきれなさを募らせる私が、練乳つきのイチゴを食べると、男は“そういうこと”に見立てて妄想する。もう、本当にイヤじゃないですか。すると、ひどいセリフは自然と出ましたね」
現場で「いいトーンで出たね」と絶賛の嵐だったそのシーンは、ぜひ劇場で確認していただきたい。清水ももちろん勧めるが、複雑な表情も隠せない。
「演じるうえではいつもと同じように、真摯に役に向き合いました。実際の事件だからと、特別な意識もなく。ただ、今、困っているんです。見てくださる人に『おもしろいから見てね』と言おうとしても、被害者もいる事件を『おもしろい』と言うべきか‥‥。どう伝えようか考えてしまいます」
だが、彼女の目に映る彼は、「普通の恋人」だった。
「変わったところは“ヤクザの息子”というくらいで、普通の恋人同士。でも、実際の事件を引いた目で見ると、狂気しか見えない。普通っていったい、何なのでしょうね」
さまざまな物議を醸すだろう「実録映画の醍醐味」に、ぜひハマるべし!