事件の核に、男と女あり。とすれば実録映画に当然あるのは、美女優たちのベッドシーンだろう。男女のカラミにおける研究の第一人者である映画評論家・松井修氏が推す「実録映画の名カラミ」とは。
私のような“藤真利子原理主義者”にとって大傑作だったのが、50年に別子銅山の社宅で起こった爆破事件により、母娘の死体が発見された事件をもとにした同名小説の映画「薄化粧」(85年、松竹)でしょう。
藤真利子(62)は豊満な体ではないものの、とにかく艶技がすごい。形のよい乳房を、緒形拳が演じる逃亡犯が音を立てて吸うと、しなやかにのけぞる。正常位で緒形の腰にギュッと足を回す。この3分間ほぼ長回しの情熱的な情事は、2人の凄みが伝わってきます。
普通の女優は「受け身でやればいいや」という意識が透けて見えることがありますが、藤は自分から求め、緒形のエネルギッシュな性欲にきっちりと応えているんです。
同映画では、浅野温子(56)もバックから乳を揉まれて犯されています。緒形の全力の乳揉みは、一瞬のシーンにもかかわらず強烈な印象を与えます。
同様に、緒形に抱かれてよかったのが、63~64年にかけて5人を殺害し、逃亡を続けた西口彰事件をモチーフにした小説が原作の「復讐するは我にあり」(79年、松竹)での小川真由美(77)。着物姿で、無理やりに近い形で後ろから犯されるのですが、しだいに上になってよがるのです。イヤだけど感じてしまう‥‥という野獣状態。こちらもやはり、緒形のセックスに対する異常な執念がカラミを盛り上げます。
混浴風呂で倍賞美津子(70)の迫力バストをわしづかみ、湯の中で愛撫する三國連太郎も頑張っていますが、義父が妻を相手にヤルか? どうもこのシーンは“実録”ではなくファンタジーに見えてしまいます。
74年の千葉親殺し事件をモデルにした小説が原作の「青春の殺人者」(76年、ATG)も、その点ではファンタジー風。開始早々、原田美枝子(58)の全裸が大写しになり、「私のことよく見てもらいたいの」と言う。華奢な体に不釣り合いな、イタリア女優のような釣り鐘形の巨乳がすばらしい。じっくりと映るお尻も張りがある。現実の事件とは関係のないサービスシーンでしょうが、これだけでも見る価値のある映画です。
一方、ノンフィクションに忠実であると思われるのが、38年の「津山30人殺し」を題材にした小説が原作の「丑三つの村」(83年、富士映画)。事件を忠実に、というより、夜ばいの風習を忠実に再現している。
まず驚いたのが、池波志乃(62)が、夜ばいに来た古尾谷雅人を手コキでイカせるシーン。手コキなんて、一般映画史上あまり見たことがありません。さらに五月みどり(78)も騎乗位ファック。2人は女優魂みなぎった「抵抗感のない濡れ場」を演じ、安心して見ていられます。
しかし、デビュー翌年の田中美佐子(57)には厳しかったようで、胸をはだけたまま正常位で突かれるシーンからは、「本当は濡れ場をヤリたくない」の雰囲気がぷんぷん。ならば、絶品のツヤ肌から乳房までじっくりと拝める全裸入浴シーンのほうがいい。
近年では、65年の女子高生籠の鳥事件をもとにした小説が原作の「完全なる飼育」(99年、東京テアトル)の、小島聖(41)がすごい。パッツンパッツンのボディはとても女子高生には見えず、キャスティングに疑問符もつきますが、そんな疑問を凌駕する激しい濡れ場の数々。竹中直人から裸体に舌をはわされよがり、対面座位で上下に激しく動く‥‥など、とにかく見どころはたくさんあるので楽しめるでしょう。
そんな中、脱がずに日本中を熱狂させたのが、61年のホテル日本閣殺人事件をモデルにした「天国の駅」(84年、東映)の吉永小百合(72)でしょう。津川雅彦に、みずからの手を股間に当てさせられ、強制オナニー。すると吉永は、顔をゆがめ、「んんっ」と声を出す。たったそれだけで、全国のサユリストは大興奮したといいます。
ちなみに、当時の一般映画界は濡れ場の演出が未開拓で、ピンク映画の助監督を呼んで指導してもらったという話も聞きます。とすると同映画では、80年代名濡れ場を緒形と競い合った津川のことですから、彼のアドリブで、吉永に強制オナニーさせたのかもしれませんね。
実際の事件を題材にすると、演じる側は身が引き締まり、見る者は想像力をかき立てられるもの。イコール、濡れ場からも一般作品からは得られないリアリティが胸に迫り、興奮度も高まるのではないでしょうか。