かつて「緑の待合」という言葉があった。
「待合」とは、仕出し屋から料理を取り、芸妓を呼んで遊ぶ部屋。明治以来、日本の政治家たちが密談をする場所として大いに利用したので、「待合政治」という言葉まで生まれた。
戦後も60年代の初期頃までは「待合政治」が蔓延していた(60年安保の自民党の単独強行採決の決定も、「待合」で話し合われたという)が、60年代から政治家はゴルフ場で密談することが多くなり、そんなゴルフ場を、ノンフィクション賞にその名を残す大ジャーナリストの大宅壮一氏は「緑の待合」と呼んだのだった。
その「緑の待合」も今では死語となり、そもそも「密談政治」が非難されるようになったのだが、まさか21世紀の今になって復活するとは思わなかった。
アメリカのトランプ大統領と日本の安倍首相が、プロゴルファー世界ランク4位の松山英樹を「呼んで」「実りある会談」を行った(安倍首相)というのだ。
バカも休み休みにしてほしい。松山プロは殊勝にも「この経験を生かしたい」との感想を発表したが、シーズン中のプロスポーツ選手を「権力者」が呼びつけて一緒にプレーさせるなど、スポーツとスポーツマンを馬鹿にするにもホドがある。これではまるで、贔屓筋が横綱を宴席に招いて酌をさせるようなものだ。
事情通に話を聞くと、今年の2月アメリカで日米首脳会談が行われたとき、フロリダのトランプ大統領所有のゴルフ場でゴルフを行い、食事をともにした。その際、大統領が松山プロの話を持ち出し、軽い調子で、一緒にプレーしてみたい、と口にしたそうだ。それを忘れずチャンスと受け取った日本側が、トランプ大統領の来日に合わせて「ゴルフ(外交?)」をセッティング。松山プロにスケジュールを空けさせたという。
それだけではない。
トランプ大統領とラウンドするのに、都心に近く、日本で最も素晴らしいゴルフ場の一つとして霞ヶ関カンツリー倶楽部が選ばれたが、都心からクルマで行くと2時間はかかる遠さ。そこで大統領専用機エアフォースワンの着陸地が、当初予定されていた羽田から横田米軍基地に変更され、そこからヘリコプターでゴルフ場へ移動することになった、と先の事情通は言う。
アメリカの大統領が他国を訪問するのに、まず自国の軍隊の基地に降り立つとは、まったく失礼な話で、まるで植民地か属国扱いの屈辱とも思えるが、それを「ゴルフ(外交?)」のために日本側がセッティングしたとなると、もう呆れてモノも言えなくなる。
安倍首相と日本政府の高官たちは、来日した大統領がまず自国の軍隊の駐留基地で軍隊のジャンパーを羽織り、自国の軍人たちに挨拶をしたのを見て、何も(屈辱感を)感じなかったのだろうか? 日本は独立国で、植民地ではないと反論する気は湧かなかったのだろうか?(おまけにダブルのスーツを身につけた天皇陛下の前で、シングルのスーツの前ボタンを外したまま挨拶する礼儀知らずの大統領に、腹が立つことはなかったのか?)。
国のトップの人物同士が良好な関係にあるのは決して悪いことではあるまい。
しかし、はたしてロシアン・ゲート事件で足もとが揺らぎ、北朝鮮問題でも軍部強硬派の意見に従う意志を見せている大統領と、密接な関係になるのが日本の国益に叶うことなのだろうか? それは戦争に巻き込まれるだけのことではないのか?
リオ五輪の閉会式で、安倍首相がマリオに扮したのも最悪だったが、ゴルフ(スポーツ)を政治に平気で利用する政治家が日本の総理とは‥‥2020年が心配でならない。
玉木正之