「平昌オリンピック」でなく「平壌オリンピック」と揶揄され、大会の盛りあがり以上に政治問題ばかりが騒がれる今回の冬季五輪だが、日本でも安倍首相が開会式に出席するか否かで意見の分かれる騒動となった。
安倍首相は結局、開会式の出席を決めたようだが、朴槿恵政権下で「不可逆的完全解決」したはずの「慰安婦問題」が、文在寅政権になって「未解決」と蒸し返され、そんな折に平昌に行けば韓国政府に政治利用されるだけ、と首相の訪韓に反対する声も大きかった。
が、ここで確認しておくべきは、オリンピックの開会式に日本国の首相を招待するのは韓国政府でも平昌市でもない、という事実だ。
開会式の招待状を出すのはオリンピックの主催者であるIOC(国際オリンピック委員会)で、次期五輪の開催都市である東京都の小池都知事と、その開催を財政的にバックアップする日本政府のトップである安倍首相が招待されるのだ。
もちろんそれは建前。韓国政府としては五輪を「政治利用」し、安倍首相と並んで写真に収まり「慰安婦問題未解決」を内外に示したいのだろう。が、安倍首相もIOCの招待で訪れるのであり、そもそも平和運動である五輪は現実の政治問題とは無関係と、はっきり表明すればいいはずだ。
それ以上に、平昌大会が終わったあとの北朝鮮とアメリカの関係がどうなるのかが心配だが、そんな政治問題とは別に、平昌大会に関して、日本国内でナサケナイ問題が持ちあがった。
それは、JOC(日本オリンピック委員会)が、大会に出場する選手たちの「壮行会」を「非公開」にしろ、と言いだしたことだ。
平昌五輪に出場する選手たちは、自分が所属する大学や企業、あるいは出身校(小中高校)やその同窓会が「壮行会」を開き、激励を受けて出発することが多い。が、JOCは、その様子がマスコミによって報道されると、オリンピックの協賛企業以外の企業や学校の宣伝になるからダメ、と言いだしたのである。
JOCとしては、44社のスポンサーを集めており、それ以外の企業や大学がオリンピックを利用した宣伝行為は認められない、というのだ。しかもJOCは、「壮行会」を開催しようとしている企業や学校関係者に直接「取材禁止」を通達するのではなく、選手の所属するスポーツ団体(スキーやスケートの連盟)に通達し、そこから「壮行会の主催者」に連絡が入ったという。
そのため「壮行会の主催者」は誰もが、選手に迷惑がかかってはいけないと考え、マスコミに「取材禁止」を通知したというのだ。
昨今のオリンピックや、出場選手の支援には多額の費用がかかり、JOCやIOCが「商業主義」に走るのもある程度は理解できる。が、選手強化や選手の五輪派遣には税金も投じられており、選手たちの動向をメディアが報じるのは、当然の行為である。それを禁止するのは、報道の自由を制限する行為として絶対に納得できない暴挙と言える。
それに、そもそもオリンピックや出場選手を「支援」する44社の企業が、寄付行為でなく自社の宣伝の一環としてカネを出し、その行為をJOCもビジネスと捉えているところに、何とも情けないさもしさや意地汚さを感じないわけにはいかない。文化とは、そんな利己的なエゴ意識で育つものではないはずだ。
2年後の東京オリンピックでも‥‥と思ったとき、微妙な事実に気がついた。
朝・毎・読・日経など日本の主要メディアは、多額の協賛金を組織委に支払い、オフィシャル・パートナーになっている。なのにまさか報道規制がかかるはずはない‥‥が、いや、そんな立場からの情報発信は「報道」ではなく、やはり「広報」と言うべきだ。オリンピックの報道は問題だらけですなぁ。
玉木正之