稲葉監督率いる日本代表野球チーム「サムライ・ジャパン」が、韓国、台湾チームに勝ってアジア・チャンピオンシップ・シリーズに優勝。これは2020年の東京オリンピックで正式競技となった野球の日本代表チームの強化のために新設された大会だが、実力が拮抗するチームの試合は、見ていてスリルと迫力に溢れ、結構面白いものだった。
サッカーではACL(アジア・チャンピオンズ・リーグ)で、浦和レッズがサウジアラビアの強豪アルヒラル(アラビア語で三日月という意味)を決勝で破って優勝。最近は南米や欧州から有名選手を集めた中国の台頭などで、レベルが高くなってきたアジアのサッカーでクラブ・ナンバーワンの座についた。
これらの出来事は、通常ならテレビのワイドショーなどで大きく騒がれてもいい快挙のはずだが、メディアのスポーツの話題は「日馬富士暴行傷害事件」一色。サムライ・ジャパンや浦和レッズの快挙を一面からはずして「暴行事件」を報じたスポーツ紙もあった。
「日本の国技」である大相撲での「暴行傷害事件」であり、しかもその「国技」が汚されたと言える事件なのだから、そのような扱いも仕方ない、とも思えるが、それならもっと真剣に取りあげるべきだったはずだ。
11月28日になって被害者の貴ノ岩の頭の傷(といわれる写真)がテレビ放送に出回った。が、この写真が何故もっと早く公開されなかったのか?
9針も縫った‥‥という情報は伝わっても一直線のキズでない場合もあり、相撲を取るのに支障はない‥‥との診断書を書いた医者のコメントが伝えられれば、小さなキズが点在していたと考えて当然だった。
が、7センチ前後も一直線に裂傷が走り、医療用ホチキスで9箇所も止められた傷口の写真を見せられると、頭から激突する相撲など当分とれるはずがない(と少なくとも相撲を知っている者にはわかるだろう)。
もちろんこの写真が、貴ノ岩の頭部だとするならば‥‥という(今のところ)仮定のもとでの話だが。顔は写っていないとはいえ、このような写真を作為的に作ったり、別人のケガを写したりすることも考えにくく、貴乃花親方の千秋楽後のコメント(階段から落ちた程度のキズではない)とともに、これは貴ノ岩自身のケガと断定していいだろう。
ならば、もちろん日馬富士のあまりに酷い暴行傷害は責任追及を免れず、引退以外の道はなかったのだろう。が、その暴行を止めず(止められず)に、周囲で見ていた白鵬と鶴竜の責任や横綱としての品格も問われてしかるべきだ。
おまけに白鵬は、千秋楽での優勝インタビューで、まず現場にいた「関係者」の一人として、日馬富士の暴行を止められなかった責任を感じて謝罪するべきだった。それなのに、「場所後に真実を話し、ウミを出し切って、日馬富士関と貴ノ岩関を土俵に上げてあげたい」と語ったうえ、万歳三唱までやってのけたのだ。
加害者である日馬富士を「土俵に上げて‥‥」というのは完全に越権行為で、横綱の口にするべき言葉ではない。また、かなりの流血があったに違いない暴行現場に同席しながら、自分に何の責任もない第三者のような態度で優勝を喜び、万歳までやってのけた神経の鈍感さには呆れるほかない。横綱審議委員会でも白鵬の「ウミを出し切る」という言葉が問題にされたそうだが、角界で止まない暴行事件だけでなく、このような白鵬の傲慢な言動も角界の「ウミ」に違いない。それに対して相撲協会が細かく注意をしてこなかった結果、「ウミが溜まった」のだ。
百聞は一見に如かず。貴ノ岩のケガの写真を貴乃花親方が即刻公開していれば、すべては一瞬に氷解していたはずなのに‥‥。
(玉木正之)