テリー 師匠が今後目指していきたいことって、何かあるんですか。
志らく 伝統芸能というのは、師匠が死んだらその弟子の中に入り込んで、自分のやり残した落語・芸に対する未練を弟子と一緒に語りながら解消していくものだ、と思っているんです。だから、今、自分の体の中に談志は生き続けているんですよ。談志が死んだのは75歳、私は54歳なので、その年までに体の中の談志を消さなくてはいけない。
テリー 師匠を消してしまうんですか。それって、寂しくないですか?
志らく ずっといてもらっちゃうと、結局、私は「談志の足元にも及ばず」ということになりますから。20年もたてば世間も、談志やその芸を忘れてしまう。その時、談志を消せば、やっと師匠の足元に及ぶ落語家になれると思うんです。だから、まずはそこまで頑張ってみたいですね。
テリー なるほど。
志らく あと、テレビの仕事で、今まで見たことのない世界を知ることができたのも刺激になっています。例えば、ダウンタウンさんの人気があるのはわかるけれども、ただテレビを見ているだけだと「何がそんなにすごいんだろう、この人たちは?」なんて印象だったんです。しかし、実際に会って話をしてみると、「なるほど、こういうテクニックや感性があるから、ダウンタウンは生き残っているんだ」ということがわかりましたし。
テリー ハハハ、勝手にテレビには向いていないと思っていたのにね。
志らく まったくですよねェ(苦笑)。こういう刺激は、やっぱり芸人としては相当プラスだと思いますから。まあ、長々とテレビの世界で生きるわけにもいかないとは思うんですが、もし許されるのなら、あと10年くらいはこういう仕事をさせてもらえると、うれしいですね。
テリー さっき「談志を消す」とおっしゃっていましたけど、逆に立川流の中で誰か談志の名前を継がないんですか?
志らく 継がないですね。継いでもいいことないですから(笑)。
テリー 師匠が勝手に継いじゃえばいいじゃないですか、和泉元彌みたいに。
志らく ハハハ! そうすると分裂騒動が起きると思うので。
テリー でも実際問題、もったいないとは思いませんか。
志らく もったいないですよね。でも、たぶん名乗りをあげる弟子はいないと思いますけど。
テリー 誰も? それはまたどうして?
志らく 確かに、師匠の名前を継ぐ名誉はものすごく大きいものがあるんですけれども、今後、残りの人生を落語家として生きていく時にはマイナスのほうが大きすぎます。現在は、弟子たちそれぞれは自分独自の芸が評価されていると思いますけど、「談志」という名を背負ったとたんに、前の談志と比較されてしまう。これは厳しいですよ。渥美清を継ぐ、みたいなものですからね(笑)。
テリー 確かに、誰でも寅さんができるわけない。でも、さっきの話じゃないけど、世間が談志さんの芸をすっかり忘れてしまえば、可能性はありますよね?
志らく そうですね、そういうずうずうしい弟子が何十年かあとに出てくれば。
テリー それまで、師匠は立川流をもっと盛り上げていかないとね。落語はもちろん、テレビでのますますのご活躍、期待してます。
◆テリーからひと言
当たり前だけど、しゃべりはうまいし、やっぱり頭がいい人だよね。対談では否定されちゃったけど、こっそり談志を襲名しちゃってください。